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(2008.07.01-2008.08.31)

7月1日             ジンバブエ

6月末、ロバート・ムガベ大統領5選を果たす。
正確には無理やり自らを大統領に当選させた。

アフリカ南部に位置し、ほぼ日本と同じくらいの国土を持ち、ビクトリアの滝、
グレートジンバブエの遺跡、サファリなど、観光資源の豊富な国家,、
ジンバブエでの出来事。

大統領という権力から離れれば、反対派による、過去の否定、自由の剥奪、逮捕、終身刑、
最悪は極刑といった事態も予想できる。そのことを一番知っているのが、本人だから、
どんな不正な手段を使っても権力の座から、離れることが出来ない。
独裁者の悲しい運命。

そんな彼も、悪名高いアパルトヘイト国家ローデシアを、1980年に白人の手から解放し、
ジンバブエという黒人国家をつくった、当時は、英雄だった。

私が訪れた97年に見たところでは、セルフサービスのカフェテリアで、黒人と白人従業員の
連係プレーが見事だったし、街の様子を見ても、それなりに両人種がうまく融合している
感じだった。
国際的にも二つの人種の融和政策が評価されていた。

でも、両人種間に大きな生活格差があったのも事実。
私が泊まった大農場は、イギリスよりも昔ながらの伝統を守り優雅な世界だったけれど、
使用人たちの家は、レンガむき出しのみすぼらしい建物。また私の泊まった田舎の
黒人民家は、家畜の糞を壁に使用し、電気・水道・ガスもなかった。

それでもまだ両者が、表面的にでも協力し合っていた頃は、国家的には経済が潤っていた。
歯車が狂い始めたのは、2000年に、白人農場の強制収用が、起こったときに
大統領が黙認してから。黒人達の気持ちも分かるけれど、手段の悪さと、後のことを
考えなさ過ぎていた。

いくらハードを黒人の手に戻したとしても、肝心のソフトである白人が築き上げた、
ノウハウが欠如した状態。農業生産力も著しく低下すると共に、国際的制裁を受け、
年10数万%と言われる超インフレなど、経済的破綻の道を歩んで行った。

国家の低迷に反比例して、ムガベ大統領の暴走、独裁は加速するばかり。
最初は立派なリーダーでも、権力の座に長く就きすぎると、独裁者・暴君に変貌
してしまうのが、歴史の常。

一日も早く政権が代わり、人々の生活が楽になることを祈るばかり。
それにはまず子供達に、各自が問題点を考えること、人的ソフトを育成する教育をして
行かないことには、悪い歴史を繰り返すだけで、未来が見えてこない。

ところが、子供達に教育をきちんと受けさすのも簡単なことじゃない。
大人たちに十分な生活力がないから、子供達は貴重な労働力。
いつの間にか学校に通わなくなり、教育を受けないまま大人になるといった悪循環と
問題は山済み。

私に機会を与えてくれるなら、この国を立て直してあげたい。
正直そんな気持ち。



7月2日            女性ホルモン服用6ヵ月後

初めてのホルモン服用から6ヶ月経過した様子は、このような感じ。

顔     変化なしの男顔。ただ目付きが、少し柔らかくなったようにも、見方によれば感じる。

肌     きめ細かくなった。綺麗とは言えないけれど、半年前の脂ぎったオヤジ肌から
       比べれば、満足しないといけないかな。

ヒゲ    生える速度が落ちたみたいで、2日に一度か毎日少し抜く程度。

体毛    元々薄いので変化はなし。

バスト   Bカップになったけれど、すでに成長は止まっているみたい。

ウエスト  お腹に贅肉が付きやすくなって、困っている状態。

ヒップ   パートナーによると、少し脂肪が付いてきたと言われるものの、私から見ると同じ。

人の視線 フルメークをした時は、対人恐怖症が、かなり治まったものの、月-金は不安だらけ。

精神状態 かなりの鬱状態。常に寂しさ、不安が付きまとう。睡眠障害。洞察力、分析能力の低下。
       お仕事のプレッシャーに対して弱くなった。

総括    まだHPに写真を掲載できる状態じゃなし。しかしながら、半年前のこれから
       おクスリを始めるにしては、あまりにもオヤジ顔のマイナスの状態から、始めた
      ことを考えると、それなりの進歩はあったみたい。



7月4日            新たな問題

近視矯正手術を受けて一週間。

めがねなしで外を歩いたり、仕事をしたりするのは、こんなに楽しいとは、思わなかった。
でも、まだ慣れていないか、時々めがねを探したり、お洋服の試着の時にはめがねを
外そうと、手を持って行ったりする状態。

ただ、まだ焦点がおかしかったり、暗いところでは、字が読みにくいなど、安定していない
のは、仕方ないけれど、困ったのは、近くが見えなくなっていること。正確には至近距離。

以前であれば、本は15cm以下の近さで読むなど、逆に至近距離が明確に見えていたの。
特に不便を感じるのは、おヒゲの処理をする時。これまでは、一本たりとも残さないように、
抜いていたのが、ほとんど見えない。手探り状態で抜かないといけなくなった。

脱毛を行えば良いのは分かっているけれど、物価や金利がどんどん上がっているので、
経済的には難しいし。ちなみに普通のレストランでも、夕食を食べると、一人当たり1万円は
する状態。勿論、お味も雰囲気も普通。車のガソリンも、リッターあたり200円はずっと以前に、
達しているほど。今日のレートは1.332ユーロ。160円換算でも、約213円。

こちらはボーナスなんて存在しないし。

これからどうすればいいのか、結構不安な状態。



7月5日            ワンピース

今日は、初めのワンピを着てのお出かけ。

現在、ヨーロッパもセール真っ只中で、先週末にパートナーの勧めもあって、買ったもの。
ベースは黒に花柄だけれど、肩のところは白地に黄色いお花が咲いていて、さらにふわっと
盛り上がっているので、ドイツの民族衣装風。見方によればコスプレしていますといった感じ。
胸も大きく開いていて、ブラのカップが、ハーフカップだと、一部がしっかりと、
はみ出ちゃうから、日本で着るのは、抵抗があるけれど、こちらだと大丈夫なので、初挑戦。

ワンピの感想は、足の下、胸がスースーして、スカート以上に頼りない感じ。
でも、子供の頃から憧れた夢をようやく叶えられて嬉しかった。
後ろもふんわりしたリボンで結ぶようになっているので、正直少し可愛すぎたかなって印象も。

ただ、まだしばらくはアイメークが出来ないので、人の視線が気になって仕方なかったな。
それでも、こんな状態で、お出かけが出来るようになったのも、ヨーロッパ人には、
アジア人の性別を見分けるのが、簡単じゃないことも幸いしたみたい。

それにしても、こちらの人って、誰一人として、夏にはストッキングを穿いていない。
見るからに汚い足でも堂々と素足のままで。私も、郷にしたがって素足。

学生の時に、女性化に踏み切れなかった大きな原因として、人には絶対に見せることが
出来ない、コンプレックスが足にあったの。そういった意味では、ヨーロッパが、私にスカート姿で
歩く勇気を与えてくれたと言ってもいいほど。それに今日のようにアイメークなしの状態では、
日本ではとてもお出かけに踏み切れなかったと思うの。

私が、ヨーロッパで、まりなとして、生まれ変わって、本当に良かったと思う。
そうでないと、今の私が存在しなかったように思えるから。





7月7日            不安が蓄積すると

目の手術後同僚に言われたことは、目が以前より細くなったねということ。
実際、私もそれには気付いていた。でも、それは、目の手術後の影響で、まだまぶたがまだ、
少しはれ上がっていていることが、原因みたいなの。

でもそれから10日たった今も、少しはましになったけれど、やはりまだ以前の状態じゃない。
ただでさえ、片方は昔から、一重でコンプレックスなのに。

ここ3ヶ月は、アイラインを入れることを欠かさなかったから、同僚にもよりそう思えたみたい。
更に最近は目尻だけでなく、全体に入れるようにしていたの。
そのアイラインを入れるのは、もう少し待たないといけなく、毎日自分の顔を見るのもいやで、
ひょっとしてこのままの目の状態になるのかなど、以前の私には考えられない、
不安も募るばかり。そして、良くなった視力とはいえ、1.0は余裕でない状態。

そんな不安が蓄積した状態で迎えた、月曜の朝。
気分が重かった。

通勤途中に変な寒さを感じ、会社に着いて仕事を始めたら、めまい、吐き気、息切れのような
症状が出てきたの。最初は気にしていなかったけれど、それがどんどんとひどくなり、
耐えられなくなり、結局は、早退してしまったの。

夏風邪の初期症状かなとも思いたかったけれど、今は治まっていてそうでもないみたい。

こんな症状はこれまでになかった。
いえ、単に気付かなかっただけかも。

一体何なんだろう。ネットで調べると、症状が、パニック障害によく当てはまっている。
まさか私が、そんなものにかかってしまうなんて、、、
考えてみれば、朝から気分が重かったのも不安が原因だから。

それに、実は、別の大きな不安要因もあるの。

次から次へと、私に襲い掛かってくる精神障害。
一体、いつになれば安定するんだろう。

以前は、考えもしなかった、心の平和。
早く私の元にも訪れてほしい。
なんて、言うのはあまりにも自己勝手。

こうなることも分かっていて、貴女が選んだ道なのだから…、まりな。

そう考えるだけでなく、貴女も何かの努力もしなさいよね。
それを乗り切れないと、女性になれないのよ。



7月9日          男脳と女脳

朝、まりなの目の下が腫れていた。

私にはその理由が分かっている。
昨夜は、帰宅すると夕食も取らずに、ベッドに直行し、後に帰ってきたパ−トナ−が、
心配してくれても、静かにしておいてと、その理由を語ろうとしなかった
正確には、語る気力もないほど衰弱しきっていた。
 
今朝も、偏頭痛、吐き気、動悸があったみたいだ。
通勤途中でも涙が、止まらなかったのを私は見逃さなかった。

一人で悩んでいなく誰かに話せば、少しは気が楽になると思うのだが。
しかし、悩みを話すイコ−ル恥と考えているし、
話せる相手もいないのだろう。
一人で悩みを抱えるところは、子供のころより全く変わっていない。
むしろ、海外生活で日本にいる以上に、戦う必要が多かったためか、
負けるものかと変なところで強気になっていて、人に甘えることを忘れているのだろう。
余計なプライドを取り除けば、少しは楽になるとは思うのだが。
 
こんな状態の彼女に、私は一体何をしてやれるのだろう。
夏休みに日本に里帰りさせ、気分転換させるのが、よいかもしれない。
前回は雑用に追われていて、ゆっくり出来なかったし。
果たして、効果があるのかは、分からないが、そうさせてみよう。

私から見ると彼女の脳は、まだ男性のままに思えて仕方がない。
自ら篭る殻を捜し、周りから遮断し、そこで解決策を考えることによって、
心の安定を求めようと
している。
他人に対しても、相談とは、解決を求めるための行為と考えている。
それは、典型的な男性脳である証拠だ。
 
これが、本当の女性だったら、人に聞いてもらうだけで、ストレスが解消され、
気分が晴れるのだが。
 
よく、男性が女性に相談されたときには、どうしても解決策を、述べてしまう
傾向にあるが、女性が求めていることは、悲しみなどに、共感してもうことであり、
むしろ解決案は、マイナス要因になることもあることを、男性は理解していないことが多い。
 
私は一日も早くまりなに、それらのことを休暇中にでも学んでもらいたいと、
遠くで見守っている。そして、今のきつい性格でなく、より女性らしく可愛い性格に
なってもらいたいと、心より望んでいる。



7月11日          ワインの代わりに

先日ストレスが、ピークに達した時、酔っ払うために買ったワイン。
2ユーロの安物だったためか、酔う前にまずくて、飲むのをやめちゃった。
それでも無理して、グラス3杯は飲んじゃったけれど…

そんな時の口直しに飲んだのは、ガスパチョというトマトをベースにした冷たいスープ。
ビタミンも豊富でお肌にも良いから、私の隠れた好物なの。
たまたまスーパーで見つけて買ってみたら、美味しかった。

スペイン南部アンダルシア地方が有名。
スペインでは夏になると、必ずお昼の定食のスターターに含まれるほどらしいの。
それだけでなく、バル(カフェ兼食堂兼飲み屋)にはHay gazpacho(ガスパチョあります。)
と入り口に張り紙があり、それだけを飲ませてくれるの。

アンダルシア地方は、青い空、白い家、フラメンコ、50度近くになる夏と、日本人の
抱くスペインのイメージそのもの。私も大好きで、最初にスペインを訪れた時には、
真っ先に目指したところ。

ガスパチョはトマト、きゅうり、玉ねぎ、にんにく、赤ピーマン、パン、オリーブオイル、
お酢、お水をフードプロセッサーで混ぜるだけのいたって簡単なもの。
分量とかのレシピは、実際に作ってから掲載するね。





7月12日          黒い靴

ちょっとシックな感じでということで、黒いパンツを買ったの。

後日、パートナーと街を歩いていたら、パンツに合う靴はどうするのと言われ、
週末用の靴のことと思い、靴屋さんへ。

サイズ的にはお店に展示用に一番多く置かれている、最も標準的な38(24.5cm)なのに、
私の足って左右の幅が少し違うみたいなので、片方は39(25cm)の方が良かったりと、
お気に入りのがあっても結構難航。

そんな中、ようやく見つけたのが、この靴。



そうしたら彼女が、一言。
「これで月曜に黒いパンツと合わせて履いていけるね。」だって。
冗談だと思ったら、本気だった。
リベラル過ぎるというか、何といっていいのやら…

パンツは通勤用に買ったものの、
さすがに靴は、お仕事にはまずいんだと思うんだけれど…
これまではメンズとレディースの中間くらいの靴だったけれど、これは、気持ちヒールも
付いているし、どう見てもメンズには見えない。
さて、どうしようかな。



7月15日          アイラインの魔力

今日は2週間ぶりにアイラインを引いてお仕事に。
たかが、細いラインと言えども、先週はこれが欠けていたために、パニック発作を
引き起こしたほどだから、今日は、久しぶりに気分的に落ち着けた。

休暇明けの同僚に、もう目に塗っても大丈夫なのと、しっかりとばれていたから、
女性のチェックってすごいもの。

でも、その彼女が次に小声で聞きにくそうに、私に聞いてきた事は、先週末にあった
ゲイのパレードに、私も参加したかだって。確かにこの中には、トランスも含まれているけれど、
彼女はそれを知ってのことなのかな。まあ、何でもいいけれど。

私も会場に行きたかったけれど、アイメークが出来ない状態だったため、見送ることに。
来年は、参加してみようかな。



7月16日          お肌の変化

手術後の目の検診に行ったら、視力が何と1.2と0.9で、思ったよりも良く見えていて
一安心。でも、私って一度見たものは、記憶してしまう習性があるから、片目はあまり
あてにならないかも。

遠くが見づらいと感じるのは、どうしてかな。最近は自然光の明るさでは、
おヒゲを抜くのに苦労しなくなったから、このくらいで満足しないといけないのかな。

目が良くなった分、最近は以前では気にならなかったことが、結構気になるの。
それは、肌がすごい乾燥肌になっていたこと。
リキッド・ファンデーションを使うと、厚塗りに見えたので、ここしばらくはパウダーのみに
していたけれど、デパートの鏡に映った顔を見てびっくり。

少なくとも一月前はもう少ししっとりしたお肌だったのに。
こちらは今の時期、湿気が非常に少なくて、朝お洗濯すると、お昼には乾くほど。
おクスリの影響もあるとは思うけれど、こちらの空気も関係あるのかな。

とにかく週末に何か対策を取らないと、またお仕事に行くのが、憂鬱になってしまいそう。
とはいえ、どうすればいいのかな。



7月17日          最近の楽しかったこと

以前お仕事で、お世話になったことがある人と、偶然から、4年ぶりに会う事に。

仕事帰りに、オフィスの近くで適当に飲むつもりが、あらかじめ場所をリストにピックアップ
してくれていて、実際に行くとすごくお洒落で、カナッペも凝ったところだったの。
カナッペのチョイスも、上品で、私好みで、すごく良かった。

それだけでも嬉しかったのに、50代半ばで、人生経験も豊富なためか、お話も上手で、
なんか、ときめいちゃった。これこそが、女性にとっての理想のデートなんだろうと
思うと、私は、すっかりデートモードになり、知らない間に、すっかり、まりなっぽく
振舞っていたの。

でも、おかまって思われなかったかな。

そして、嬉しかったのが、4年前の重たい感じのするサラリーマンから、表情が
すごく明るくなったね、だって。

私自身、最近は苦痛な日々が続いていて、気付かなかったけれど、
やはりどこか変わってきているのかな。

9月になったら、今度は私から、デートに誘っちゃおうっと。



7月19日         SEX AND THE CITY

昨夜は久々に、パートナーとデート。

金曜の夕方、オフィスを出たときの、何とも言えない開放感。
彼女と合流して、まだ日差しの強い中をショッピングした後に、どちらとなく出てきた
言葉は、ビール!

二人の好きなビタービールから始まって、そのままディナー。
食後に、カクテルでも飲みに行くつもりが、たまたま映画館の前を通ったら、
彼女の希望で、映画を見ることにしたの。

彼女が前から見たかったという、「SEX AND THE CITY」という、ニューヨークに住む、
4人の女性の恋愛・友情を描いたもの。
アメリカで、長年に渡って放映されていた、テレビドラマの映画化。

予想に反して、笑える場面が多かったものの、久々に見る夜の遅い時間の映画と
食後だったので、私は眠気との戦い。

映画の中では、いろんなファッションが、登場するので、私ならこういったスタイルが、
いいかななんて、考えながら見ていると、なんとか眠らないで、最後まで見れた。
でも、2時間半は結構疲れたな。

その中でも、特に目を引いたのは、つま先にブローチが付いた、青いハイヒール。
可愛くて、エレガントなもの。
映画の後で、こんな靴が欲しいなと、お酒を飲みながら、パートナーに話していたら、
マノロ・ブラニクというデザイナーの靴で、ダイアナ妃も、このデザイナーの靴を履いた
事があるんだって。

おシャレを楽しむのに、年相応のファッションに、縛られるのではなく、
要はコーディネートのセンスなんだと、この映画を通じて、私はそう感じたの。





7月21日           パス基準の甘さ

そろそろおクスリが切れるころだから、処方箋をもらいに行ったの。
こちらは、それを持って、薬局でそれらを購入するシステム。

それも、日本でジェンクリといわれているようなところでなく、
普通の内科の診療所。もちろん、そこに行く前に少しは、お化粧をして行くけれど、
仕事帰りだからとっても中途半端で、結構、他の患者さんの目が気になるもの。

先生もこのような患者が珍しいためか、色々聞かれるの。
今回はこんなことを言われた。

先生 「あなたはもう女性に見えるけど、ご両親はそのことはご存知なの。」
私  「いえ、まだです。」
先生 「… それはいけないわね。」

実は、私はこの段階ですでに傷ついていた。
それは、私が女性に見えるということ。
本当にそうなら、パニック発作なんて引き起こさないよ。
今朝だって、鏡に映った私の顔が原因で、動悸と頭痛に悩まされたんだから。

本当にこの国の人たちは、東洋人を見る目がない。
先日もある日本人男性に、現地の人を欺けても、日本人から見ると私は、
まだ男性と言われたばかり。それも薄くお化粧した状態で。
悲しいけれど、実際、それは私も同感だったので、それほどショックもなかった。
私が目指しているのは、同胞の日本人からでも、きちんと女性と見られること。

だから、私はいくら病院などで、自らの顔のコンプレックスのことを話しても、
こちらの人には理解出来ないみたい。最近は病院に行くのもバカらしい。

現地の男性は、日本でおヒゲや体毛が濃いといわれているのが、ごく標準レベル。
濃い人は、人間はサルから進化した名残が見られるほどなの。そんな人たちと比べられるから、
体毛のほとんどない私は、より女性らしく見られるわけ。

そして、他人には無関心だから、私が女子トイレに入っても、普通に振舞っている
限りは、疑問に感じても、パスさせてくれるの。

ここでは、日本の女装者の方は、自信のない人でも、ほぼ100%パスできるんじゃないかな。

とにかくこの国は何においても、レベルが低すぎる。
日本できちんとした治療を受けてみたいなと思う今日この頃。



7月23日           まりなへの道のり@

その日は、今日と同じように、セミの鳴き声が激しく鳴り響いていた。

一年近く前のことだった。
パートナーに重い腰を押され、ようやく向かった道のりは、突き刺すような日差しが、
私を睨みつけるかのようで、なかなか足が前に進まなかった。

その時、私は、GID治療を本格的に受けようと、病院に向かっていた。

初めての、病院に到着すると、待合室には女性の格好をした男性、男性のような女性。
何なのこれ。私がなぜ、こんなところに、いないといけないんだと思った。
勿論私は完全Mモード。

そして、診察室に入ると幼少から現在まで、家族のこと、そして話したくないことまで、
色々と聞かれた。そんなのキモくて、話せるかと思い、結構適当に話したような結果と
なり、あまり印象は良くなかった。

パートナーにそのことを話したら、すごく怒らえた。
まだ心の準備が出来ていなかったとは言え、もっともな事で、反省。

二度目は、ベテランの先生と、若い女医さん。
女性がいたのには抵抗があったけれど、ベテランの方が、私に質問をするので、
恥ずかしいことも彼の顔だけを見るようにして、今度は、全てをさらけ出す気持ちで、
話したこともあり、今回はなかなか感触が良かったの。

三度目は何と若い先生のみだった。
正直すごく恥ずかしかった。でも、不思議なもので、その人と話していると、気分が
すごく落ち着つき、自分でも信じられないくらい、スムーズに言葉が出てきた。
おかげで、私に対する印象もすごく良くなったみたい。

ただ、私に対して一つ疑問点があるとのことだった。



7月24日           着せ替え人形まりな

パートナーの姉夫婦が遊びにやって来たの。
彼らもEU在住だからはるばるといった感じはなかったけれど。

家に到着するとダンナの方は、私にお酒をお土産としてくれたのに対して、
義姉はネールアートのためのセットを、なぜか私に差し出したわけ。???

そして、キッチンでビールを飲みながら彼女とお話していると、ワンピを取りに行くと
言って戻ってきたら、手には2着。姉妹おそろいで着るつもりなんだと、一枚を
私のパートナーに差し出すと、なんともう一着を私に試してみろと言うの。

パートナーにも時々お洋服のマネキンになってと頼まれることがあるから、
軽い気持ちで、Tシャツとジーンズ上から羽織ったら、あなたにぴったりねなんか
言い出し私はますます????

ここからは、もう彼女のペース。
次にこれじゃよく分からないから、Tシャツを脱ぐようにと。
そんなことをしたら、ブラを着けているのがばれちゃうよと思い、理由をつけて拒否
したものの、結局は居間でこそっと脱ぐ羽目に。そうしたら、失礼と一言声をかけて、
手を私の胸の中に入れて来るじゃないの。挙句の果てには、ちょっと一度ブラを
外すねと、手際よく抜き取られた。そのブラを手に取ると、カップのここを少し折るようにしたら
胸の谷間が出来るからと、修正された後は、バストアップエクセサイズのレッスンが、
始まったの。

この時私の頭の中は、??????????な状態。
最後は、ジーンズがおかしいから、脱いでということで、私は完全にFモードにされちゃった。
更にブレスレットまで付けられ、完全にお人形さん状態のまま、夕食にありついたの。
そう、このワンピは私のためのものだった。

それにしても私のパートナーのおしゃべりなこと。
せっかくMモードでいるつもりだったのに、意味がなかった。
私のパートナーも海外生活が長いから、感覚がおかしいけれど、外国生活が30年の
彼女の姉はもっと上を行っていた。



7月25日           私は誰?

本当によく分からない最近の私。

肉体面の女性化が、精神面のそれに全然追いついていない。
毎晩のように、キモいから、明日からファンデを塗るだけで、お化粧は止めようと
自らに言い聞かせても、翌朝にはしっかりと、アイメークをしている私がいる。

ピンクのシャツの下には、キャミを着けていなかったから、特に、後ろからだと、
はっきりとブラの黒い線が、映っていることを朝、職場で気付いたの。
そんな状態で、カムフラージュのためのキャミやTシャツを買うなどの対策は一切せず、
いつものように少しメークをした状態で、ピアスをキラキラさせながら、
大きな仕事が取れるかどうかの商談に、上司同伴で、先方のトップに会いに
行ってしまったほど。

相手もいきなり日本のオカマが、訪れてびっくりしただろうな。

こんな大事な時に、一体私はどうしてしまったんだろう。
相手が、現地の人だから、特に問題はかなったにしろ、
日増しに、自らをコントロール出来なくなっているのが怖い。



7月28日           まりなへの道のりA

これまで私が、一度も女性として外出したことがないことが、疑問点みたいだったので、
思い切って、お出かけをして、写真を撮ってくる約束をしたの。
既に私は、最初とは別人なくらい、積極的になっていた。

最初に行ったことは、ウイッグ探し。
はじめのお店で訳を話したら、何とゲイのお兄さんがいて、接客してくれたから、
すごくリラックスできた。ショート、セミロングなど色々と試したけれど、でも、どう見ても
ドラえもんに出てくる、ジャイ子にしか見えなく、この案は見送ることに。

次に浮上したのは、付け毛。
でも何か引っかかるものがあり、結局は今ある髪をそのまま生かすことにし、ボーイッシュな
ショートカットにしたの。それも、普通の美容院で女性らしくと言うのは、恥ずかしいから、
ゲイのお兄さんのいるところでね。

更に何年か前に、ニカラグアで思いっきり日焼けした浅黒い顔が、より汚く見えたため、
髪型は可愛くなったといっても、顔は男顔で脂ぎった肌は、変わらなかった。

でも、勇気を出して、デパートの化粧品コーナーに行き、事情を説明して、生まれて始めて、
お化粧をしてもらったの。

メンズの服、完全な男顔だったから、通る人たちに振り向かれた
だけど、その時は、嬉しさが勝って、人目なんてどうでもよかった。

服、靴、化粧品を揃えた私は、最初の外出先にふさわしい、音楽の都を目指していたの。



8月2日            過去との決別

一月くらい前、パートナーから、信じられないことを告げられた。

私のMモードの服を8月に、リサイクルに出すから、まとめておくようにとのことだった。
最初はまさかと、考えていたけれど、服の整理を、ある週末に実行された。

確かに筋肉が落ちた分、スーツは合わなくなったのは、理解できるけれど、
ジャケットから、コート、シャツ、ズボン、Tシャツまで、一つずつ私の手元を離れって
行くのを、ただ眺めているばかりだった。
彼女も複雑な気持ちで、服をたたんでいたんだろうな。

そんな彼女にも情けがあったのか、私が顧客に会う時のことを考え、まだ着れそうな
オレンジ系統のシャツ一枚は、残そうかと言ってくれた。
シャツ一枚残っても、ジャケットがないと意味がないことだし、私は提案を辞退。

これで私のクローゼットから、アウターが消えてしまった。
インナーの時と比べて、今回はなんか、言葉に表せない、複雑な気分。

彼女、私の名刺には、Sales Managerと記載されていることを知っているのかしら。
これじゃどうやって顧客に会えばいいのやら。特に日系企業に対して。
でも、ぶかついたスーツ姿で、顧客に悪い印象を与えるよりも、今の中性的な服に、
同じ感じのジャケットでも買って、メトロセクシャル的な感じで出かければいいや。
そして、仕事をよりきちんと行うこと。
悩むよりも、気軽に構えちゃおっと、無理やり考えることにしたの。

とはいえ、今の私のお顔の状態では、時期尚早であり、あと一年は必要と思える。
最近はお化粧することも、大きな精神的負担となっている。

正直、まりなが私にもたらす、ストレスの大きさを考えると、Mモードで我慢するほうが、
私に与える苦痛の度合いも低いように思う。

もうおクスリを服用するのをやめようかな。
最近は、そう考えることもある。
そんな、私の言動から、あえて彼女が、私に対して鞭を与えようとしているのかもしれない。

彼女にも考えがあったに違いないから、信じることにしよう。
ファッション関係の仕事をしている彼女に、コーディネートをきちんとチェックしてもらえば、
問題もないだろうし。

そうは考えるにしても、毎晩Mモードの服が詰まった鞄のことをここ一月、一日たりとも
忘れることなく、明日こそは取り出して、着てみようと思っては、止めることの繰り返しの日々。

そして、ついに2日後に旅立ちが迫った、私の洋服たち。
これを書いている間にも、それらをしばらく眺めていた。
結局私は、彼らにこうささやいた。

「さようなら、昔の私の洋服たち。そして、、、昔のわたし。」

そうつぶやくと、過去の思い出が、一気に広がってきて、少し涙がこぼれてきちゃった。



8月4日            靴と女性

本当に私のMモードのお洋服が、今朝、みんな一緒に、旅立ってしまったの。
なんかまだ信じられない。
でも、この目で見届けたから、これが現実というもの。

今日は、気持ちヒールが付いているだけだからからと、パンプスを履いて、軽い気持ちで、
朝から歩き回っていたら、足が膨張してかなり痛い。
私の居るフロアはフローリングの床だから、ずっと裸足でお仕事。
それでも、足も少し休まったかなと思う、午後の最終時間に上司とお出かけした時は、
お願いだからもう少しゆっくりと歩いてよと、言いたかったくらい、つま先が痛かった。

そして、帰宅して、サンダルに履き替えたときの開放感。
こちらの方が、ヒールがあるにしても全然楽チン。

女性の気持ちと、いかに大変かを身をもって実感した一日。



8月6日          コンビニチェック

初めてこの言葉を聞いたときは、何のことか分からなかった。

会計時に女性ならピンクのボタンが押され、それによってパス度や、何歳に
見られているかが、分かるものと知ったのは、ある人のHPを見てから。

私だったら、恐ろしくて見ないようにするだろうな。
そうそうすれば、落ち込むこともないし。

ところが、ここでは、もっと恐怖に満ちたものが、存在するの。
それは、視覚によるものでなく、聴覚によるもの。

SirやMadameといった呼びかけ語以外に、男性に対して、女性に対して、
使い分けられる単語が存在すること。

それも、喫茶店やお店に入った時だけでなく、会社に来客があった時をはじめ、
人と接する場面全てにおいて、それらの単語を聞く可能性が高いわけ。

コンビニチェックは自信のない時には、見なければ、済む問題だけれど、
言葉によるものは、避けれないもので、私にとって結構なストレス要因。

今日、同僚に来客があり、その人が帰る時に、私は極力目を合わさないでいたほど。
理由は、挨拶されたくなかったから。
でも、しっかり私に挨拶して行った。
「さようなら、お嬢さん。」と。

ホッとしたけれど、疲れちゃった。
本当私って、軽くお化粧をしても、これだけ自信がないのだから、なんてレベルが
低いんだろうと、自分でも呆れてしまうな。



8月8日          女の直感

現在、パートナーは里帰り中のため、私は一人でお留守番。

私は寂しがりだから、ぬいぐるみを彼女の椅子に座らせお食事、
ベッドには別の可愛い二人に添い寝してもらっているほど。

そんな中、一緒に週末を過ごしてくれそうな、知り合いが一人いることを思い出したの。
スポーツマンで、体格が立派で、私にすごく優しくしてくれる人。
彼なら少し、甘えさせてくれるかななんて、そう考えていた矢先、パートナーからの電話で、
その彼には会わないでほしいと、しっかり言われてしまった。

なぜ、私の意図が読み取れたのか、正直驚くばかり。
これまでに、そのようなことを言われたことがなかったし。
女の感って本当に鋭いものなんだね。

ただ、彼女には、一つ忘れていることがある。
それは、私が男性に体を許す可能性はかなり低いこと。
なぜなら、私には2003-04年にかけて起こった、あるトラウマが残っているから。

嫌な事を思い出してしまった…



8月10日          信じられない恐怖体験 前編

トラウマのことを思い出した夜は、過去の記憶が甦り、場所は違うにせよ
また来るのではと不安で、なかなか眠れなかった。

時は、ちょうど5年前の今頃。
夜中に目が覚め、再度眠りにつきそうな瞬間、金縛りが私を襲ったの。
その時、目を閉じていたにも関わらず、白い玉が3つ見えたかと思うと、
彗星のように流れ、私に向かってきた。

次の瞬間、お口に違和感を感じると思ったら、今度は下半身に激痛が。
人の気配も感じた。でも、何がどうなっているのかが、分からないまま、
それ以降の私の記憶は飛んでしまったみたい。

ようやく、金縛り状態から開放されて、我に返った私を見ると、5本の指は何かを
握り締めていた形で、唇の上にあり、両足が高い位置で、開脚されていた状態。
これって、悪い夢の中で淫らなことをしていたの?
状況をきちんと把握していなかったこともあり、変な願望が、あるのかな程度で、
その出来事も記憶から薄れていった。

そして、半月後、私は再び金縛りに遭った。



8月12日          信じられない恐怖体験 中編

また、白い玉が3つ私に向かってやって来た。
今度は、はっきりと分かったの。

私が、それらの物体に、犯されていることを。

抵抗しようにも、金縛りで体が言うことを聞いてくれない。下半身にも激痛が走る。
お口の中も変な感じがする。そして、解放されたときはまた、日記にも書けないような、
体位になっていた私の姿があった。

私の足元から、直線距離でそう遠くない場所に墓地が存在することから、、
先程の白い玉は、幽霊だったんだと思うと、ぞっとして、それ以降、夜が不安になった。
それでも、私はまだ、事態を甘く見ていたようだったの。

金縛りはその後も、月に二度ほどのペースで続いた。
3体の幽霊が、代わる代わる私の体をおもちゃにしてゆく。
そのうち、下半身に人の気配を感じると、恐怖を覚え、とにかく、お口で我慢してと、
テレパシーで伝えるしかなかった。泣きたくとも叫びたくとも、声が出ない。
なんと言っても、体が思うように動かないから、抵抗にならない。
皮肉にもかろうじて動かせる場所は、私の望まない場所のみ。

半年を過ぎた頃、私に一つの考えが浮かんだの。
テクニックを磨き、早くイカせることが出来れば、苦痛な時間も短くなると。
早速、ネットで色々と研究することに。
でもね、ふと我に返ったときに、何バカなことをしているんだろう。
そう思うと、涙が止まらなくなることも、しばしば。

たとえ、友人に相談しても、ようやくオカマだということを、カムアウトしたねとか、
本当は好きなんだろうと、言われるのが、関の山。
だから、このことは、自らの心奥深くに密封しておくしかなかった。



8月14日          意外な人から

以前は敵対関係にあった同僚と最近は、私の居るフロアに来る度に、
お話するようになったの。今日はその彼女に誘われて、お茶に行ったら、
私のことを色々と心配してくれた。

月曜の朝にパニック発作に襲われた直後の、私の顔の青ざめ方が、すごかったらしいの。

落ち込んだ顔、悲しい顔を人に見せちゃダメ。あなたのそんな顔を見て、
やっぱり挫折したかと、喜ぶ人も残念ながら、社内にいるんだからと。

そして、里帰りで2週間後に実家に帰ることがすごく気が重いと話すと、
それなら、航空券を捨ててもやめればいいじゃないのとあっさり一言。
私も最近、そう考えてはいるけれれど、やはりヨーロピアンって言う事がはっきりしている。

また、こんなことも言われたの。
日本じゃあなたがどう見られるか、私には分からないけれど、少なくともこの国で、
問題はないのであれば、それでいいじゃないと、すごく現実的な意見。
そして、日本で人に何を言われても、決して相手にせず、キレちゃだめよだって。

彼女は私を慰めるというよりも、何か渇を入れているみたいだった。
逆にそうだから、惨めな気分にならず、頑張ろうという気力が湧き嬉しかった。

親身に話せるお友達が欲しかったから、HPを立ち上げたものの、私の言語能力の低さが
原因か、人間的魅力の欠如の為か、未だに誰もいない状態。
私のことを本当に心配してくれる人が、こんなに近くにいたとは想像もつかなかった。

今日は私が初めてお化粧をして、外出してからちょうど一年目。
そんな私にとって最高の記念日になった。

本当にありがとう。



8月16日          信じられない恐怖体験 後編

続きを書きたくなかったけれど、中途半端にもしたくないから、もう一踏ん張り。

私の頑張り?と、諦めから来る開き直りで、精神的苦痛は、徐々に薄れてきたの。
というよりも、避けて通ることのない出来ない、現状を受けれただけ。

半月に一度ほどの儀式として、ビジネスライクにこなすことにも慣れて来た、
一年近く経ったある夜、私は、いつものごとく金縛りにあった。

私に向かってくる白い玉たちに、
「いらっしゃい。気持ちよくしてあげるね。今日は、どんな風にして欲しいの。」
余裕十分にテレパシーでそう伝えると、私に向かっていた白い玉が、突如方向転換を行い、
来た方向を戻っていったの。

そして、それ以降私は、金縛りに遭う事も、幽霊に犯されることもなくなった。
すっかり素人らしさがなくなった私には、魅力がなくなったみたい。
新しいウブな獲物でも探しに行ったに違いないと思えた。

以上は、全て実際に私に起きたことと言っても、信じられる人はいないだろうな。
それは、それで構わない。
あまりにも異様な体験だから。

一年ぶりに訪れた心の平和。
でも、この事件をきっかけに私の内面が、大きく変わってしまったのも事実。
それまでの私には、考えられなかった行動も起こしてしまうし…
また、その時の後遺症が、体にも残っているしね。

そして、何と言っても、未だにトラウマから抜け出せない私がここにいる。



8月17日          あの日に戻りたい

パートナーが休暇先から戻り、私が最近考えていたことを話したの。

女性化の道をやめたい。

外見の変化が乏しい。いえ、最初はそれなりに表情が柔らかくなっていたものの、
目の手術を終えた後は、むしろ逆戻りしているように感じる。
特に、表情がきつく、どう見ても男性にしか見えない。
人にも絶対にキモイと思われているに違いないし。
もう疲れた。最近、死を考えない日がないほど。

しばらくの沈黙の後、彼女から返ってきた言葉は要約すると下記の通り。

「あなたは何年も真剣に考えた末に、女性化の道を選んだんじゃないの。
そんな簡単にやめれる程度のものだったの。
男性機能を破壊するリスクを計算しなかったわけ。
私を何年も、鬱状態に追い込んだことを忘れたの。
たとえおクスリをやめ、男性に戻ったとしても、もうあなたは私の夫じゃない。
いつも言っているように、あなたとは単に一つの屋根の下に過ごしているだけの、
パートナー。そのことを忘れないで。
男性として生きたいのであれば、他の女性を探してね。」

予想もしなかった厳しい答えだった。
いえ、私が甘すぎたのかもしれない。
少なくとも、以前の私は、こんな弱音を人前で吐くこともなかった。

実際、私が他の女性と一緒になったとしても、もう子供をつくれる体ではないし、
夫婦生活さえ営めない体になっているのも事実。
そして、恋愛の対象もすでに男性になっているし。
男性でも女性でもない、どちらつかずの性別。それが今の私。

そういえば、私はこれまで一度も、一つのことを、最後まで成し遂げたことがない。
今回こそはと思ったけれど、まだ道のりを半分も行かないうちに、放棄しようとしている。
本当、そんな自分のことが恥ずかしくて、嫌になってしまう。
何とか頑張らないといけないことくらいは、頭の中では分かっているけれども…

今日はもう考えることに疲れた。
ただひたすら眠りたい。



8月21日          空港にて

顧客に会いに上司と空港へ。
彼は相変わらず、私を避けている。

空港へ向かう前に、ちょっとお茶を飲んでくるから、私に5分後に出て、ある場所で
待っているようにとのこと。少なくとも、中性的な男性の服装、眉毛のみを
描いていた今年の冬までなら、一緒に事務所を出てお茶をしてから、目的地に向かったもの。
もちろん、こんなことは今日に始まったことじゃないから、どうでもいいけれど。

空港チェックインカウンターに、面識のある人がいたので、挨拶をすると、上司と私に
対する挨拶の親密度が違っていた。私のことをよく知っているはずなのに、私には
名前を付けず、こんにちはの一言。
まあ、2年ぶりくらいだからと、私の名前を強調しつつ再び挨拶をすると、
信じられないと一言発した後、カウンターの下に、しゃがみこまれちゃった。

それにしても、ちょっと受けすぎじゃないの。
やはりキモかったんだと、私は逆にカッコ良くなったでしょうと、口を開いたら、
彼女も、私が気まずそうな表情をしていたためか、むしろ綺麗になったと言ってくれた。

以前だったら、たとえお世辞でも喜んでいた私だけれども、今回は笑顔で返せなかった。
そう、最近の私から消えているものは笑顔。
笑うにも笑い方をすっかりと忘れてしまったみたい。
ネットで調べれば、載っているのかな。



8月23日          元気付けるために

少しでも気分を上向きにと、ハードロックやヘビメタを聴くようにしているの。
でないと、今悩んでいることに対して、良い考えが浮かびそうにないから。

今、流れている、MOTORHEADのKill by Deathは聴くだけでパワーを与えてくれる。
DIOのNight Peopleは冒頭から活気があり、以前はこれを目覚まし代わりにしていたほど。
あとは日本のVOW WOWなんかも。山本恭司さんの見事なギターテクニックと、
人見元基さんのソウルフルなボーカルが、結構お気に入り。アップテンポの曲も
好きだけれど、バラードがおすすめ。Shock Waveとか、あと、全体にバラードの間奏部分。
静寂の中から、突如エネルギーが爆発するようで、これが何ともいえないの。

最近、なぜかお化粧した私の顔が、ミュージシャンに見えることも。
この際だから、タトゥなんか入れてみようかな。
肩、鎖骨の下ならワンポイント、または腰だったら、サイド左右に流れる感じの
お花のトライバル模様。
結構、最後のが有力候補で、デザインもしっかりとチェックしていたりして。



8月26日          OUT OF OFFICE

明日から2週間の休暇。
ゆっくりと休養して、前向きに生きてゆく力を取り戻さないと。
少なくとも最近の睡眠障害により、思考能力がかなり落ちている。
むしろ、狂っているみたい。

今日も、同僚にくれぐれも変な気を起こして自殺なんてしちゃだめよと
言われてしまった。なぜ、私の内面を見抜かれたんだろう。
最近は、彼女には表面的には、笑顔で接していたのに…
そんなことは、今まで言われたことがなかったから、結構ショックだった。

確かに今日は、突然涙が溢れてきて端末がほとんど見えない状態に
陥った事もあったけれど、何か私の顔に悲壮感などが出ていたのかな。

そんなこともあって休暇中には、泣かない、悲しい表情を人には見せない
ように心がけるようにしよう。

私には毎月のノルマがあり、どうしても短期的に結果を出さないといけない。
おかげで今日は、少ないけれど、臨時のボーナスも貰えた。
でも、どうやらその習性が、プライベートにも身についてしまったのかも。
仕事モードの私が、人よりも優れた結果を未だ出せないでいる、
まりなをバカにしているようにも思える。

とにかく、ゆっくりと気持ちをポジティブ状態に持って行き、考えられる状態にし、
納得できる結論を出し、営業スマイルでない、本当の笑顔を取り戻したいな。



8月28日          不快な日本入国

飛行機には何時ものお仕事モードでの軽いお化粧で搭乗すると、
偶然にも昔の同僚が乗っていた。彼女はすでに私のことを知っているので、
普通に振舞えたけれど、私の容姿がすごく不安で聞いてみるとこんな答えが返ってきた。

「ヨーロッパでは女性として通るけれど、日本は分からない。でも、日本人と思われないと
思うから大丈夫。」

理由を聞くと日本人女性としては肌が黒いとのこと。
彼女なりの上手な私が女性と見えないという意味にも取れ、それ以上聞くのをやめた。
先日も上司に欧米人は男っぽい女性として欺けても、日本人には男性に見えると、
お化粧した状態で言われたくらいだから、やはりそうなのかも。

そして、いよいよ日本の入国審査。
昨年6月に取ったパスポートの写真でも、係員が女性だから私がリードされ問題ないなと
軽い気持ちで構えたら、大間違い。

いきなり私のパスポートを上に持ち上げ、後ろで待っている人たちに見えるように、
また大きな声で、
「この人は誰ですか?」
と聞かれた。

ただでさえオカマ顔でコンプレックス満載でこの場にいるのに、ひどすぎると私も頭にきて、
性別を変えたと、大きな声で言うと、バツが悪そうに何かをモゴモゴと呟きながら、
「帰国」のハンコを押してくれた。

横のブースで順番を待っていた元同僚にも聞こえていたみたいで、実家までの道のりで
そのことを思い出すと、ムカつきが止まらなかった。
人それぞれ事情があるのだから、優しく聞くとか、怪しければ別室で調べてくれたら
いいものを、思いっきり恥をかかせてくれて。

まりなにとっては初めての日本なのに、いきなり印象が悪くなった。

でも、考え方によっては女性に見えていたのかも。
もしこの時、そう解釈していたら、翌日の悲劇は回避できたかもしれなかった。



8月29日          史上最悪の日

ベリーショートから一年間伸ばし続け、ようやく肩まで伸びた私の髪。
技術の高い日本の美容院で、こんな顔でも女性らしくしてもらえると希望を抱いて
美容院に出かけたの。

そしてもう一つの目的は、メールで私を励ましてくれた人たちに会って、お礼も言いたく、
女性らしいヘアスタイルに変わった、まりなを見てもらおうと、空港でもそれを楽しみに
お土産を選んでいたほど。

二の腕が大きく割れた女性らしいTシャツ、ジーンズに、ピンクのバッグ、おそろいの
サンダルにお化粧も週末のフルメークで臨んだにも関わらず、いざ私の要望を
聞かれると、突如そこにいた人たちが私を女装したオカマと見ているように視線を感じ、
いきなり私が男であることを告げてしまったの。

すっかりパニクっていた私は、髪を伸ばしているからバックの長さは変えないでと
最初に言ったものの、カラーリングの後、これからカットという時に、再度聞かれた際には、
軽い感じで、女性らしくと、後はお任せと頼んでしまったの。

結果は最悪。
カット直後はまだ頭がボーっとしていて気付かなかったけれど、実家に帰って母に
今度は中性的な髪型ね、悪くないわねと言われたときに初めて、すごくボーイッシュに
なっていることに気付いた。

前髪や頭の天辺にボリュームがあって、レイヤーが付けてあって、下に行くにしたがって、
ボリュームがなくなりスカスカする感じで、バックは肩にかろうじて何本かはかかるかなと
言った程度で、質感としては一年前のショートカットにした時と同じ状態。

男性の中で女性っぽい髪型。そして、私としては明るい感じの顔にしたく言ったつもりの
軽い感じが、ボリュームを取るということに解釈され、悲惨な結果に。

もうGIDのお友達には会えない。

これだったら、下手でも出発前に髪を揃えるだけにしておいた方が良かった。
少なくとも、生まれながらの女性で通していたはずだから。

その夜は一晩中泣き続け、夜明け前にパートナーに電話をして慰めてもらい、
ようやく一時間ほど眠れたものの、翌朝にもすごいストレスとなっていて、もう全てが
終わったと、無気力になっていた。

なぜあの時、男性だと言ってしまったんだろう。
戻れるものならもう一度、時間を戻して欲しい。
後悔してもしきれなかった。



8月30日          カミングアウト

帰国の二日前に両親に私が、現在GIDとして治療を受けている旨をメールで
知らせておいたの。

ブラ着用で胸が少し膨らんでいたこともあり、メークダウン出来ずそのままで
実家に帰ると、母にかなりびっくりされちゃった。

それでも私は気を使って、お部屋でメークダウンして、ブラも外すつもりだったのに、
別にそれでいいから下におりて来てゆっくりとしなさいと言われ、そのままの姿で
いることになったの。

それでも母は私が、現在男性に戻るための治療を受けていると思い込んでいたようで、
話をするにつれて、彼女の表情がますます厳しくなっているのが分かった。

しばらくして、父が仕事から戻ってくると、私を見るなりなんだ、その変な髪形はから
始まり、自然と家族会議が始まった。

父も私が自らの性の違和感に悩んでいる状態だと、比較的軽く考えていたようで、
おクスリにより少し膨らんだ胸、男性としての機能を失くしている事、既に後戻りを
していること、おクスリもこの先ずっと服用する必要があることなどを話すと、
そんなことはテレビの世界だと思っていたと、いつもはドンと構えている父も
ショックを隠せない様子だった。

特に二人にとって許せなかった事は、私がなぜもっと早い段階で、パートナーだけでなく、
両親に相談しなかったということだったの。確かに二人の気持ちも分かるけれど、
おクスリを飲む前のオヤジ顔では、そんなことは恥ずかしく言える状態じゃなかった。

後は言われることをひたすら聞くのみで、第一回目の話し合いは終了。
結果は私を受け入れるように前向きに考えるとの事。
それでも、その夜、両親は一晩中眠れなかったと言っていた位だから、かなりショック
だったのも事実。今はただ静観するしかない。

実際、美容院に行った翌日の30日の母の私に対する態度はすごく冷たくなっていた。
実家での私の居場所がなくなったこと、そして、この夜も髪の事が気になり、
「さようなら、まりな。」と呟いたり、帰国後に着るメンズの服を引っ張り出してきたり、
挙句の果てには時には声を啜りながら、泣き続け、一睡もすることなく朝を迎えた。

そして、この夜悲しみ続けた結果、心からまりなとして、残りの人生を過ごしたい気持ちを、
お顔がキモイとかに関係なく、確信したの。



8月31日          開き直り

今日は学生以来の付き合いのある友人に会う日。
出発の前夜から数えると、この4夜での合計の睡眠時間は6時間ほど。
更にストレスも極限に達していた私は、Mモードで出かけるつもりが、
何を血迷ったのか、少しでも女性らしく見えるようにと髪を後ろで束ねて、
パープルのアイシャドーをしっかり塗って、電車に乗ってしまったの。

もうその時は人の視線なんてどうでも良かった。
わたしは「まりな」。お顔が少し男みたいだけれど、何が悪いと開き直っていた。

その彼には事前にメールで伝えてあったから、表情を変えることなく私に接して
くれたものの、不気味だったから聞いてちゃった。

まず、私のお化粧が一般の日本人女性と比べると濃い。
メーク方法が日本のものと異なり、少なくとも日本人、中国人、韓国人には見えない。
それは、私がパートナーに教わったから仕方がないけれど、デパートで日本式の
お化粧を教わった方がいいなどとアドバイスしてくれた。
肌が白くないこともあり、ブラジルあたりからの出稼ぎとして、外国語を話した方がしっくりと来る。
機内で元同僚に言われたことに似ている。
後は体型やオーラが男っぽいと言われたかな。

喫茶店で色々とお話していると、尿意を感じお手洗いに行こうとしたものの、
そこは地下のショッピングセンター内で、センター内にあるものを使うしかなかった。

ついに避けて通りたかった事が訪れた。
彼と一緒に男性用に入ろうかと考えたものの、私、女装していますと告白している
ようだから、思い切って女子用の扉を開けたら、ガーン、大勢の人が待っている。
すぐにそこを出て、少しはずれにある、ここなら大丈夫だと思ったところに入っても、
前には10人ほどが順番を待っている。もう我慢の限界にあったこともあり、
開き直って待っていても、出てくる人たちから異様な視線を向けられることは、
不思議となかった。

用を足した後、試しにドレッサーに座ると、隣の女性が私を一瞬見たものの、
何事もなかったかのようにメークを続けていたし、私もお化粧を直していても、
後から来た人には不審に思われなかったみたい。

その後、別のところで試しても同様な結果だったこともあり、フルメークをすれば
何とか大丈夫なんだと、少しは自信が付いたの。

    ..........      


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