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(2009.03.01-2009.04.30)

3月2日     遠ざかる光

父を亡くしたショックで、母まで生きる気力をなくしているという話をしていた
パートナーから、こんな言葉が発せられた。

「そろそろ私から独立して。」
「貴女はもう十分女性なんだから。」

どこが女性なのよ。すっぴんなんてオトコそのものだし、お化粧してもオカマ顔だよ。
そう言っても、彼女にとって私はもうダンナでないなどと、実際の容姿とは関係なく、
私を生理的に受け付けなくなっていることは確か。

パートナーが以前にも増して、私から離れて行っていると感じていたものの、
はっきりと言われるのは、これを書いている今でも、ショックを隠せないの。

今では堂々と外出している私だけれど、内心は、未だキモいままで、
どうやっても変わらないお顔で、気が狂いそうになることもしばしば。
そろそろ失敗を認める時期が来ているのかもと、考える事もあるくらい。

そんな私でもまだこうして生きていられるのは、パートナーの存在があるから。
彼女が居てくれたからここまでやって来れた。
でも、こんな事を言う私は、甘えていて、我侭なだけなのかも。

そうよね。彼女は私を今日まで十分に支えてくえた。
これからは、彼女の幸せをこれまで以上に考えてあげないといけない。
頭の中では分かっているけれど、実際となると…

今晩彼女が帰ってきたら、ゆっくりと話そう。



3月4日     透明人間になってゆく私

この一月を観察していると、一年前の私を知っている人が事務所を訪れた際の
反応は以下の通り。

*改まって用件を伝え、そのまま該当者のところに向かう人。
*私ですと言うと、好奇心を剥き出にして、後で上司に非難を浴びせる人。
*私を訪ねて来られているから、より親しみを込めて挨拶をし世間話を始めると、
  いらっしゃいますか(私が)と別のフロアに移動しようとする人。

そして、昨日はこうだった。
私が席を外している間に来客があり、戻ると同僚がその人のことを紹介してくれた。
以前業務上お世話になった人で、私を良く知っているはず。

でも初対面のためか、同僚が私の名前を言っても全く理解不能な顔をしていたの。
電話の声と顔が一致しないから当然かな。
しばらくの沈黙の後、渡辺さんですかと、同僚女性の名前を出してきた。
その段階でこれ以上、私の名前を出すだけ混乱をもたらすだけでなく、
後で何を言われるか分からないから、席に着こうとしたら同僚が再度私の名前を強調。
結局はますます???モードになったみたいで、さすがに彼女も諦めて別のフロアに
移動しちゃった。

人に分かってもらえない方が良い事位は分かっているけれど、
私が透明人間になっていっているみたいで、寂しいなとも感じたの。



3月6日     ビア・テイスティング

たまに会うお友達グループの一人の日本人男性。
その人から、家に来てビールの味比べをしませんかとメールが。

まずはスーパーのプライベートブランドのビールを2種類用意されて、
どちらが高級な方かを当てること。
似たような味で、判断が難しいかったけれど、ワインのようにグラスを傾けたり、
味や炭酸の強さ、喉越し、余韻などを頼りに実際にやってみるとすごく奥深い。

世界的メーカーとプライベートブランドを確かめたり色々試した結果、これまで
美味しいと信じていたビールが最低で、こんな安物と馬鹿にしていたのが、
意外と美味しねと二人で結論を出したりと、いかに先入観が邪魔をしているかなど
発見も多くすごく楽しかった。
ビア・テイスティングって結構おすすめかも。

ところで一体、何本ビールを空けたのかしら。
冷蔵庫の中のものを全て飲んじゃったかも。
帰ってからパートナーにもっと女性らしく、控えめにしなさいと叱られちゃった。

そして何よりも嬉しかったのは、その人に個人的に誘われたのが初めてだったこと。



3月7日     欠如しているもの

アクアマリンのような透き通った海の眩しさに目を奪われていると、
パートナーと私の乗った気球が、なぜかセントレア(中部国際空港)に着地。
巨大なスーツケースをそれぞれ抱きかかえるように、出口に向かっていると、
突然彼女が寂しいと言葉を発したの。

彼女が寝室に入ってきたことによって、それは夢だったと気付いた。
ところが彼女が最初に発したのは、どうして人生ってこれほどまでに
寂しいものなのかという言葉。
あまりにも偶然で恐ろしかった。

父を亡くした寂しさに突然襲われたようで話を聞いていると、彼女に必要なのは、
強い男性だということ。彼女の中ではどの男性も精神的に弱く、自身を強く
支えられるキャパシティーを持った人がいない。

ようやくパートナーが私に旅立ってと言った理由が理解できたと思うの。
女性化によってすっかり精神的に弱くなった私では不十分である事。

今の私にはどこまで包容力を持って、強く振舞えるか分からないけれど、
彼女に早く元気になってもらうためにも、気持ちを切り替えて頑張らないと。
これまでの恩返しの気持ちもこめて。



3月8日     下町

以前私が旅行をしていた時は、必ずといってもいい程に下町に宿を
取るようにしていたの。一泊の予算を3ドルとかでね。

通りは汚れている、治安が良くない等問題も多いけれど、人は親切でお友達を作りやすく、
一人では行けそうにないところを案内してもらったりしたことも幾度とあった。
ごはんだって、ちょっと気取ったレストランよりも美味しく、毎日食べても飽きないほど。
そして、一番美味しかったのは、仲良くなった人の自宅でご馳走になった食事。

お腹を壊すことは、口に入れるものを厳選して、気を付けていても途上国ではいつ
どうなるか分からない。むしろ、体調を崩す事を恐れながら食事する事の方が、
ストレスになることに気づいてからは、最初から大衆食堂で食べて、下痢の洗礼を受け、
体に慣れてもらった方が楽だと分かったし。そうするともう怖いものはないしね。

こんな旅行とは最近はすっかりご無沙汰だな。
それ以前に、訪れた国も80カ国を超えたところで、旅自体がばったりと止まっている。

将来の彼氏にどこか未知の国に連れて行ってもらいたいな。
今度はエスコートされて。


(リマの下町、滞在先の窓から)



3月10日     偏見の目

近頃、電話で女性に思われる事も徐々に増えてきて、先日も半年前に話した人に、
女性の方でしたっけ?でも下のお名前は、確かxxさんでしたよね???
と困惑した人がいたけれど、遠方の人だから問題なし。

今日は電話に出ると、女性の同僚と間違われちゃった。
それでも、何事もなかったように、すぐに普通の会話が始まり安心していると、
午後にオフィスに来たいと言われたの。

えー、どうしよう。
確かその人と最後に会ったのは、一年近く前。
そして来社されると、私が居るかと尋ねられた。
もちろん目の前に居るのに分からないから、私ですと強調すると、
「女装始めたの?」と態度を変えて一言。

もうこの段階で、説明しても聞く耳持ってもらえないのよね。
スカート姿も見られちゃったし。

偏見の目には慣れないといけないのは分かっていても、ここまで目の前で
露骨に言われると結構堪えちゃうな。
ただでさえ、今の私の精神状態は自己崩壊に向かう傾向があるのに。



3月13日       変わったね…どこが

昨日、バスを待っていたら、唯一、私の秘密を知っているご近所さんにもう完全に
変わったねと言われたの。おクスリを始めて一年ちょっとが経つ割には、残念ながら
そんなに変わっていない。最近スカートを穿く機会が増えたからかな。

そして今日、その人がたまたま通勤途中でパートナーと一緒になり、
同じ事を言われたと彼女が私に教えてくれた。

一年前の私はスーツ姿。今はお化粧して、香水を付けて、スカートを穿く事もある。
要は服装が完全に変わったという事かしら。
いくら外人でも私のオカマ顔を見抜けないわけがないよね。

私のお顔の変化の乏しさは、私自身が一番良く知っているから。



3月14日       スカートはどこ

明るい色のスカートを探しに、まずはお気に入りのお店に行ったら、
色やデザインの選択以前にスカートが見つからないよー。
結局広い店舗には2種類あったのみ。

他のお店をハシゴしても、スカートの種類は少なく色以前に気に入ったデザインもなし。

ようやく、これかなって黒の薄い素材のブラウスと、ベージュの軽い感じのスカートが
コーディネートされていたものがあり、スカートだけを取ろうとしたら、
ワンピで一枚に繋がっていたの。ありゃ。
どう見てもワンピに見えないアンバランスさに惹かれ、最終的にはそれに決定。

まだ寒い事もあると思うけれど、ヨーロッパの女性って、日本と比べてスカートを
穿かないことを改めて感じさせられた。
真冬なんてスカートの比率は10%程度じゃないのと思った事もあるくらい。
私もずっとパンツスタイルだったから、人のことは言えないかな。



3月16日       自爆しちゃった

ある顧客から来社したいと連絡が。
確かに今日か明日にお会いする事になっていたものの、私は明日だと思い
黒のセーターとパンツルックで女性らしさに欠けていて、オカマって思われないかなって
ちょっぴり不安な気持ちで接客。

うぁ、綺麗で頭の切れそうな女性。
ちょっぴり焦ったけれど、不審に思われる事もなく、お仕事の話が一段落したときに
その人からこう言われたの。

顧客:「お綺麗ですね。」
心の私:(女性ってお世辞を言わなければならないのね。大変だこと。)
顧客:「ハーフの方だと思いました。」
私:「オトコとオンナのハーフです…」
心の私:(ゲッ、ちょっと待ってよ。意味が違うじゃないの。外人とのハーフの事で、
ニューハーフだと思ったとはおっしゃていない。バカ、何を勘違いしているのよ。)

電話とメールでの今日までのやり取りが水の泡になっちゃう。
そう考えていると、恋人はいらっしゃるのですかと聞かれた。
という事は先ほどの私の発言は、聞かなかった事にしてくれたのかな。
どう考えても、男性の恋人の意味にしか取れないし。

少しホッしたような気もするけれど、複雑な気分。

今後はハーフはニューハーフじゃないってことを肝に銘じておかないと。
それにもう少し自信も持たないと。



3月19日       お気に入りの組み合わせ

ショッピング時の昼食、ちょっと小腹が空いたときによく食べていたバーガーキングの
Whopperメニュー。サイズが大きく食べ応えがあるものの、これ一個で約600カロリー。
お肉が3枚入ったトリプルを一度食べた事があるけれど、なんと1000カロリー強。
それにポテトだから一体どれくらいのカロリーだか。

ファーストフードのハンバーガーはあまり好きじゃないと言いながら、
今思えばよく食べていたなって感心しちゃう。

なぜかと言うと、飲み物にビールが選択出来ちゃうの。
これって、日本にはない特典。
ハンバーガーとビールの組み合わせが大好きなこともあり、
ついつい誘惑に負けていたわけ。



最近は女性ホルモンにより太りやすい体質、豪快にかぶりつけなくなった事もあり、
すっかりご無沙汰。

たまに無性に食べたくなる事があるけれど、ダイエットしないと暖かくなった時に
体のラインが出る服を着れなくなるし。
気楽だった昔と大違い。女性化の道は厳しいな。



3月20日       オンナとしての振舞いの難しさ

パートナーにお友達と会うけれど、一緒に来ないと誘われ待ち合わせ場所に行くと、
女性ばかりでみんなキレイ。特に二十歳過ぎの女の子なんかモデルとしても
通用するほど。この位の年齢の西洋人って、綺麗な子がゴロゴロいるのよね。

みんなに紹介をしてくれたけれど、あくまでも彼女の一友人として。

女性らしいお酒の飲み方、おつまみの一品料理の食べ方などはパートナーから
ある程度学んでいたけれど、会話の内容の選択は結構気を使った。
オトコだった時にはごく普通の事でも、オンナとしては不自然なものが以外にあるから。

それでも最初のカフェは何とか乗り切れたかなと安心していると、パートナーに
近くに住んでいるお友達から電話があり、みんなでお邪魔する事に。

ソファに座り、出前のピザを食べ、お酒も進むとそれまでの緊張が和らいだみたいで、
ある女の子から私の足元を見てセクシーって言われちゃった。
最初はストッキングの柄のことかなと思っていたけれど、スカートの裾が上がっていて、
レースの部分が見えていて、恥ずかしかった。

その後は酔いがより回った事もあり、スカートの股を開いていなかったとか、
ガーターベルトまで露出していなかったかななんて、後で結構心配したほど。
女性のチェックは厳しいから。

今夜はプライベートで初めて過去を一切封印して振舞ったつもりだけれど、
実際はそんなに簡単なものじゃなかった。
いくら外見をパス出来たとしても、女性としての振舞いを身に着けない限り、
女装している事と変わりがないと思うの。

外見は極端な話、誰かメークの上手な人に手伝ってもらえれば、何とかなるけれど、
女性らしい仕草、振舞いはこれまでの身に付いた習慣を根本的に変えるのは
自らの努力によるしかない。

段々女性化の課題が難しくなって来ているけれど、乗り切れない限り
目標はただ遠ざかる限り。
頑張らないとね。



3月21日       一年後のわたし

前回は種類の少なさに収穫のなかったスカート。
ちょっぴり気合を入れて、郊外のショッピングセンターまでお出かけ。

ようやく色鮮やかな春物の服が並び、見ているだけ心がときめき楽しかった。
そして遂に気に入ったスカートを発掘。
白地に赤、ピンク、ピスタチオ、緑、パープルのお花が水彩画のように
埋め尽くされたとても春らしいもの。

まだ手持ちの少ないスカートは、黒やグレーなど落ち着いた色でどちらかというと
無難な感じだったけれど、これはお花畑の中を飛び交う蝶々の気分になれそう。

試着をするとMよりもSサイズかなと思ったけれど、後ろをリボンで縛るように
なっていたので、太る事も考えてMサイズに決定。
意志が弱いな…

その時、ふと私の脳裏をあることが横切ったの。
一年前。同じお店でオドオドしながら、うつむき加減にパートナーの後に
ぴったりとくっ付き試着室に入っていた私。

そんな私が今では堂々とショッピングも試着も楽しんでいる。
当時の私から見れば信じられない光景。

来年は今をどう感じているのかちょっぴり楽しみ。



3月25日       失くしてしまった宝物

まだ一緒に暮らし始めて間のない頃、パートナーが発した言葉。
「みて、あの老夫婦。杖をついて仲良く歩いているよ。
おじいちゃんはネクタイまでしてオシャレ。
私たちもいつかあんな夫婦になってみたいね。」

そんな未来は今ではなくなってしまった。
私がおじいちゃんにならないこと。
その時には二人が一緒にいないこと。

なぜ女性化なんて始めてしまったの。
いくら私が自らの性に絶えられないほどに悩んでいたとしても、
二人の関係まで崩壊させてまでも行う価値があったというの。
単なる私の自己満足のために。
二人で力を合わせればもっとステキな幸せを手に入れられなかったの。

皮肉な事に心に少しゆとりを持てるようになった今、
失って初めて気づいた私の女性化以上に大切なもの。
最近ではお化粧してお仕事に行く事さえ虚しく、バカらしく思える。

女性化を止め、昔のカラダに戻っても構わないと考え始めているの。
もしパートナーがもう一度私を受け入れてくれるのなら。
現実には難しいけれど、これが今の正直な気持ち。



3月27日       健康診断

そういえば会社の健康診断があったの。
指定されたクリニックに行かないといけなっかたけれど私は不参加。

外見と性別が一致しない、小さいけれど胸がある。しかも外人。
これだけでも色々と好奇の目で質問されることになるから、答えるだけ邪魔くさい。
それに検診、検査内容も大したものでないでしょうから、価値がないと判断。

GIDの病院でこれまで二度、18本のサンプルを取られ検査を受けているから、
最低限の健康状態は維持で出来ているのかも。
そうは言っても、この国だからあまり期待は出来ないけれど。



3月28日       Masturbation

深夜にテレビでこんなタイトルの特集が組まれていた。
女性が指を使って快楽に浸っている画像でなく、バイブを使うのは可愛い方。
大半は自転車を漕ぐ事によってバイブが出入りしたり、スポーツジムの器具に
巨大なバイブを取り付け行為に励むというかなりマニアックなもの。

意味不明なそれとは対照的に、男性はただ性器を上下に愛撫するシンプルさ。
今でこそシンプルという単語を使ったけれど、高校生活も後半に入った時に、
空のジュースのビンでふざけていた同級生を見て、オトコってアソコを上下させるもの
なんだと初めて知ったの。

夜、学校で見た行為を試すと見事なまでに感じなかった。
その年齢まで一切快楽を求めたことはなかったのではなく、女の子としては
どうすれば気持ち良くなれるかは会得していたものの、オトコとしてのそれを
求めた事がなっかただけ。

その夜はすごくショックで、やはり私はおかしいと悩んだことを思い出した。

それ以降も男らしい性欲を持つ事はなく、私にとっては永遠に
未知のものとなりそう。



3月31日        X Day

ついに私が会社にとって永遠に不要となる日が来てしまった。
最大の要因は日本人社会からのプレッシャー。

日本ではGIDという存在がようやく浸透し始めているのとは対象に、
ここでは30年前の日本そのもの。

私の過去を知らない人は、普通に女性として接してくれるけれど、
それを知る人達にとっては、単なるオカマ、ホモ、変態女装者にしか過ぎない現実。

これからが本当の意味で女性として通用するかの正念場。
私の巣立ちの時が訪れた。



4月2日        声変わり?

通りを歩いていると、私の女性化以前、初期時代(0-6ヶ月まで)を知る女性と
ばったり遭遇。挨拶してもキョトンとしている。私の顔を見る事は
しょっちゅうだったのに。名前を名乗ってようやく私を認識してもらった。

そんなに顔が変わったとは思えないけれど。
でも嬉しかったのは、声が変わったねと言われたこと。
ボイストレーニングはしていないのに。

冬に風邪を引いてから声がハスキーな感じになり、結構コンプレックスを
感じていたのよね。何年か前に私の声がスターダストレビューのボーカルの人に
似ているねと言われ、今もそんな感じかなと思っていたから。

ひょっとしたらホルモンが効いてきたのかも???
そんなこと…ないか。



4月4日        ただ同情されていただけ

パートナーと久々にショッピングにお出かけ。
歩きながら間食を何度も取らないようにと、お昼はちゃんと3/4ポンド(約340g)の
ハンバーガーをメインに選択。冬に食べたものも、実はハーフポンドではなく、
こちらだったみたい。今度は1ポンド(約454g)のものがあれば挑戦したいな。

食後は満足感もあり、肌寒かったけれど春モード全開で歩いていたら、
男の人に声をかけられちゃった。適当に交わしてそこを立ち去った時、
パートナーが入っていたお店から出てきて、その男の人が私の方を振り向いていた
ところを目撃されたの。

お互い欲しいものを手に入れ、街をお散歩していたら夕方に。
ワインを飲みに行きしばらくお話をしていたら、突如彼女に溜まっていたものが爆発。

「あなたの変化に耐えられない。
一年前は中性的だったし、何よりも可哀想と思ったから何も言わないようにしただけ。
お昼だってちゃんと男性に声をかけられていたでしょう…」
まだ色々と言われたけれど、後のことは思い出したくもない。

そのお店を出たとき、もう一軒と誘われたけれど、涙が零れて来て、
一人そのまま通りを歩いて行ったの。

こんなキモい顔でも、最近は無理をして自信をもって生きる事を始めたのに、
人は反比例して私を突き放してゆく。会社もパートナーも、もう自信があるから
いいでしょうと。一体何のために、女性化の道を進んでいるのかしら。
段々よく分からなくなってきた。

気が付いたらある広場に私の姿があった。そこでは楽しそうな表情を浮かべて
誰もが待ち合わせをしている光景が広がっていた。
ただ一人涙が止まらない私を除いて。



4月9日        逢いたかった

昨日、ヒールが10cmあり側面にリボンが付いたフェミニンな赤い靴と
薔薇の刺繍が入ったちょっぴりセクシーな黒の網タイを買ったの。

私に対する偏見に満ちたこの社会の男性の中で、オンナとして生きる喜びを
感じさせてくれた人に、私の最高な姿を見てもらいたい思いから。

今日はその人とのデートの日。
しばらく奥さんが来ていたから逢えず、ずっと楽しみにしていたほど。
間違いなく今頃はとても楽しい時を過ごしていたはず。
ところが私はその場所にいない。

日増しに深まるパートナーとの溝。
今朝も離婚には最低8ヶ月の時間を要するからそろそろ準備を始めようなどと言われ、
精神的に不安定になっている私にはかなり堪え、お化粧も出来る状態じゃなかった。
時間だけは刻々と過ぎ、気づいたら待ち合わせの時間に間に合わない。

それでも到着したら電話をくださいと言われたものの、わずか2、3時間で私の表情が
最高の状態に戻るとは思えない事もあり、結局はお断りしたの。
キモいお顔のオカマなくせに、プライドだけは純女並みに高い厄介な私。

本音は何としても逢いたかった。たとえ10分間でも。
その人は、この週末にヨーロッパからも日本からも遠い国へ転勤になっちゃうから。
大臣や大統領とパイプを持ち国家レベルのビジネスを展開するほどの人だから、
強化する必要のある国に予定を切り上げてでも行かないといけない。

仕事だけでなく、人間的にも、異性としてもすごく尊敬できる人。
後でメールは送るつもりだけど、逢って最後にお礼を言いたかった。
私の心を癒してくれたステキな人に。

今は、いつかまた逢える日が来ることを祈るだけ。
そんな私の気持ちが遠い地まで届きますように…

Au revoir et à bientôt, mon coeur.



4月10日       復活祭

春分の日の後、最初の満月の次の日曜日。
これがプロテスタント・カトリックでの復活祭の日の決め方。
今年は4月12日がその日。

その直前の金曜日(今年は今日)がキリストの処刑された日で人々は慎しみ、
肉食が主体のヨーロッパでもお肉を一切口にせず、お魚を食べる家庭が増えるの。

クリスマスよりも重要な位置づけにあり、キリストがエルサレムに入場してから、
処刑され、復活するまでの様子を再現した山車の行進がカトリックの国では
盛んに行われます。

イタリアはカトリックのお膝元ということもあり普通かなといった印象がありますが、
スペインやその植民地であった中南米なんかも見逃せません。
特にスペイン・セビリアのものは規模が大きく、復活祭=イースターエッグ
(チョコレートで作られた卵を色鮮やかな銀紙で包まれたもの)としか
頭の中になかった私には衝撃的なものでした。

休日になる4日間(木-日、金-月と国や地域により異なる)は、
テレビでも聖書に基づく映画が多く放映され自宅に居ても
特別な日である事を感じます。

4日間のお休みのため観光地は日本のゴールデンウイーク並みに混雑。
普段はほとんど並ぶ事のない観光名所でも、2時間待ちといったことが
珍しくない状態で、その時期にヨーロッパの観光を予定している人は要注意です。

それでも街中のショーウインドーは色鮮やかに飾られ、
気持ち的には春が来たと感じることが出来るの。



4月11日       冬の次に来る季節

先月通勤中にストッキングが足元にずり落ち、恥ずかしい思いをしてから、
スカート着用時はその種類によるけれど、原則ガーターベルトを使用する事に。
以前はセクシーさを強く感じるアイテムだったのに、最近では単なる嗜みや
ファッションの一環として、色のコーディネートを意識するだけ。
この意識の変化って何かしら?

そこから派生し、この一ヶ月位前からは自らの性を特に認識していなかった
事に気づいたの。無意識のうちにお化粧してスカートを穿いて、
まるで元からオンナであるかのごとく社会生活を送っていた感じ。
恐ろしい。

現実には、外見をはじめ多くの面で未だオトコな部分を残しているわたし。
しかしながら、今やパートナーは私をMtoFとさえも見てくれていない。
私としてはこれまでと同様に接しているのに。
見た目だって半年前とは一切変化があるとは思えない。

春・夏・秋・冬と明確な日本の四季の様に、女性化にしても男・MtoF・女と段階を
踏んでいく意識の私に対して、パートナーには冬から一瞬の春らしい気候の後、
一気に夏に飛んでしまうこちらの季節同様、MtoFとして容認=我慢出来る期間が
既に終了し、彼女にとっては単なる他人になってしまったのかも。

自らのお顔の現状を踏まえ、もっとオカマらしくつつましく恐縮し生きていれば、
人は私から離れていかなかったの?

それとも、ひょっとして私は気づかぬうちに何かの変化を遂げていて、
それを一番感じていない人だけなのかも。

私は一体何者なの?
オトコでもオンナでもどちらでもなかったりして。
考えれば考えるほど、私が誰だか理解不能になって来ちゃう。



4月14日       はじめてのお出かけ 1日目

私が初めてお化粧して外出したのは2007年8月。
地元だと誰に出会うか分からないから、音楽の都、美味しいスイーツで女の子を
満喫できそうなウイーンを選んだの。

事前に少し練習したものの、アイラインがはみ出る、アイシャドーはどこまで塗れば
良いのか分からない。しかもファンデは素肌に直塗りしていたくらいの無知さ。
多分まだ自宅にネット回線がなかった時かも。

実際、化粧水・乳液の存在を知ったのはまだ昨年の話。

こんな調子ではいつ外出できるかわからない。
あきれ返ってしまったパートナーに、ほとんど手直しされる感じでようやくホテルの外に。

白に金色で大きな文字の書いてある、肩の落ちるタイプのTシャツとジーンズの
中性的なファッション。誰かが少しでも私に視線を向けると、オカマだと見抜かれた
に違いながらと不安たっぷりで歩いていると、汗もすごいのね。
黒いブラだったから透けてしまう。
これを書いている今も、その時と同じブラを着けているのは何かの偶然かな。

それでもなんとか最初の目的地である「ザッハトルテ」で有名なホテルザッハの
カフェに到着。ザッハトルテと白のグラスワインに気を取られていた私は、
徐々に人の視線を感じなくなっていたみたい。



ところが向いの席に日本人カップルが座り目線の合う私としては凍結状態だった
けれど、注文に戸惑っていた彼らにも余裕はなかったらしく、なんとか救われた感じ。

夜はスカートを穿いてお出かけしたけれど、パープルのシャドーを単に太くベタ塗りで
今から思うとどう見てもオカマ。それでも人は外人の私には結構優しく接してくれたの。
日本ならまず殴られていたか、職務質問にあっていたんだろうけれど。

女装外出一日目は無事終了。
言うまでもなくその夜は疲れて爆睡しちゃった。



4月17日       はじめてのお出かけ 2日目

女装外出は一日だけの予定だったものの、昨日はオドオドし過ぎて
日中を楽しめなかったこともありリベンジ。

その日は猛暑の事もあり、夏モード全開!
トップスのキャミはビスチェ風というか、ボーンの入っていないビスチェそのもので、
レースの薄い部分は肌に透け、まったく昼間のTPOを無視しているファッションかも。

昨日とは異なり、王宮を堂々と観光し、写真撮影を人に頼み、
ビールをジョッキで呑むなど、今から振り返れば完全オカマモード。

それでも人は顔色を変えず、普通に接してくれる不思議な世界。
ウイーンが大好きになっちゃった。
調子に乗って別のバーでワインを呑んでいると、パートナーが一言。

「外のテラスに座っている男性二人が、さっきからずっとあなたを見てるわよ。」

気持ち悪くなりその場所を後にすると、案の定私に声を掛けた来た。
しかも何度も。何十メートルの距離を離れるまで。

「いくら暑いからといっても、この街で昼間にそんな格好をしている人は
見かけなかったよ。きっとアジアあたりの娼婦に思われたんじゃないの。
ワインもおつまみすら取ることなく、二杯お代わりしていたでしょ。」

おそらく二人の男性はゲイで私を見た瞬間、仲間だと思われ一発させろよ
だったじゃなかったかなって私は思うの。

それでも当時の私は声を掛けられたことの方が嬉しく、女装画像を見たりしている
信頼できる友人にこの写真を送ったの。  

すると件名は「キモい」。
悪い冗談だな。少しは褒めてくれるかなと本文に目を通すと、
「これまでに見た女装画像の中で最低の部類」と書いてあったのみ。

確かにプロフィールの写真なんかと比べると、特に目付きが鋭く男そのもの。

眼鏡をかけ暗い表情をし、絶対に女性を目指している顔をしていなかった私。
それでも当時の私としては、出来る限り頑張ったつもり。

ショックは大きく、そこから立ち直り、お化粧して外出するには長い期間を要したほど。
正確には今もコンプレックスを引きずっている。

それでも、まりな最初の一歩として、今では貴重な想い出なの。



4月19日       女性らしい顔

髪がショートからミディアムになりクリップやバレッタを使ったヘアアレンジが
出来るかなと日本から持ってきた、本を見ているとモデルさんたちに
共通点がある事に気づいたの。

顎の形が逆三角形であること。

気になりネットサーフィンを始めると、綺麗と思う子がそうであったり、
整形で顎の形をそのように変えたりする人がいることも。

私の顎の形はホルモンを始めてから、下あごに脂肪がつき丸っこい形に
なってしまったのよね。

私が昨年美容外科で、どこを整形すれば女性らしい顔になれるかと聞くと、
先生:「うーん、どこと言われても…特には…」
私  :「…(絶句)」
そんなにあっさりと見捨てないでよと、食い下がって聞くと、「顎の骨を削る事」と
言われた事を思い出したと同時に、コンプレックスに支配され食事も喉を通らなく
なってしまたほど。

二、三日悩み続け、パートナーに顎の整形について相談を持ちかけると、
「貴女の場合は似合わない。」と言われてしまった。
「でも、貴女は逆三角形の顎をしているよね。」と彼女に言うと、
私は顔が小さいからこれで似合っているのと。

ちょうどテレビに出ていた司会者の女性を指し、
「彼女の顎の形はあなたのと同じだけれど綺麗でしょう。」
それでもCMに入り顎が逆三角形の女性を見つけると、やっぱり女性は
そうじゃなきゃと主張する私。

すると、こちらの女性にはあなたの顎の形をした人で綺麗な人が多いし、
ヨーロッパを代表するファッションショーに出るモデル達を見た事があるのと
聞かれてしまった。

私は外人じゃない、日本人なのと強調し、HPの画像を何点か見せると
こう締めくくられたの。
「なにもステレオタイプの日本人を目指すことはないじゃない。」
「今の貴女の顔の形の方がエキゾチックに見えると思うよ。」

そこまで言われるともう顎の形なんかどうでも良くなってきちゃった。
確かに日本に帰る度に画一性を感じたもの。
再度ヘアカタログをチェックすると、メーク方法をはじめみんな似たような
感じの顔をしているし。

人とはちょっと異なった人生を送ってみたい。
そんな思いもあり、海外に出たんだよね。
そうよね、他にはない自分だけのオリジナルを目指す事が大切なのかも。



4月21日       アイシャドーで冒険

まだ暖房が必要な日があるにもかかわらず、ショッピングセンターに並ぶ服は
すっかり春-初夏モード。
いつもとは違った色のアイシャドーが欲しくなり、最初に目についたお店に。

色の種類が豊富なだけでなく、マーブル模様になったもの、ゴールドのラメが
散りばめれているものと結構オリジナリティーに富んでいたの。
ただ、値段の一番高いラメ入りのもので、わずか5.90ユーロ(約750円)と安すぎ。
Made in Chinaだったらやめようと商品を手に取って見るとItalyとなっていたの。

店員さんにお試しになりますかと提案され鏡のある席に移動。
各種ブラシやチップが用意されてあり、値段の割には本格的な感じ。

黒にゴールドのラメが入っているものを選んで塗ってもらうと、ちょっと色が濃いかな。
次に店員さんが売りたそうにしていた、黒が入った4色のパレットを試しても同様。
淡色系が良いのかなと、私に似合いそうな色を聞くと、
「お肌の色が白いから、黒や農色系がお似合いですよ。」と意外な答えが返ってきた。
(ファンデで白く見えるだけ…)

お化粧歴が浅く、どの色が似合うか分からなく聞いているのに。
相手はまさかと思っているであろうから、どう伝えれば良いのか分からない。
一層の事、一年前までオトコであったことを暴露しちゃおうかなと考えたけれど、
そんな勇気はなかったの。

それにしても西洋人に肌が白いと言われたのには笑っちゃた。

少し悩んだ結果、値段も安いし、ここで冒険をしないとまたゴールドブラウンや
パープルなどの無難な色になりそうなこともあり、最初のラメ入りのものにしたの。

実際に使ってみると、目はくっきりとした印象になるものの、少しでもはみ出ると
失敗が目立つ、塗り方により濃淡が出てしまい、慣れるまでは難しいみたい。
しばらくは黒シャドーの日が続くのかな。



4月23日       無反応と重圧

知り合いの日本人男性とばったり出会ったの。

ホルモンを開始後二ヶ月目にようやくお化粧をして、ここなら誰とも会わないだろうと
向かった郊外のスーパー。ところが、運の悪い事に私のお化粧した姿を初めて
他人に晒す事になったのが、その彼。
当時は近づくのが怖く、少し距離を置いてお話したほど。

後日仕事のメールの最後に、「すごいイメチェンですね。遠めには女性に見えました。」
と書かれてあったの。つまり近めではオトコだということ。
次に出会った時に、女装趣味があったのですかと聞かれたくらいだし。

今回その彼に言われたのは、もう普通にしていたら分からないと。

去年の私なら飛び上がって喜んでいたコトバ。
ところが、一切の嬉しさを感じなかったの。
なぜかさえも分からない。

むしろもう一人の私が、
「ちょっとそれよりもアンタ、そのキモい顔をなんとかしなさいよ。」
とそんな声が聞こえてくる。

今の私が昔の私を乗っ取った事に対する恨みが依然と強く、やたらと私を潰しに
かかってくる。最後は重圧に耐えれなくなり、泣いてしまう私。

私はどこまで耐えることが出来るのかしら。



4月24日       今昔物語

ここに2枚の写真があります。

左側は初めてお化粧して外出したウイーン2日目のもの。
右側は昨夜パートナーの新しいPCのWebカメラ機能の使い方を聞かれ、
テストで取った画像キャプチャで、就寝前のすっぴん。

(2007年8月)(きのう)

二つを眺めてみると変わっているところは、今の方が目付きが柔らかくなっている?、
あごと頬がふっくらとしていることくらい。
ただ、今の顔はサターンのようにも見えるね。

肝心の女性化という点では…残念ながらゴツゴツした顔のオカマ。
顔の女性化手術、金の糸、フェイスリフトも考えてしまうけれど、
お金もないことだし、もっとスキンケアなどの努力をしないとね。
一年後にこのオカマ顔が女性らしくなるように。

女性でもすっぴんはあれっと驚く人がいるじゃない、お化粧して変身しているんだよ。
これこそオンナとして生きる楽しみなんだから。
黒シャドーを塗った鏡の向こうの人物が私にそう呟いた。



4月27日        ツンドラに咲く花

ノールカップ、北緯71度に位置するヨーロッパ最北の岬。
(正確には、それより1,5kmのところが最北端だけれど)
そこに向かう途中に見かけた真夜中らしくない風景。
短い夏のツンドラの大地に咲く黄色い花。

7月中旬というのに残雪があることから、いかに厳しい気候にあるか想像がつく。
冬場には太陽が姿を現さない日々が続くほど。

そんな暗黒の時期をずっと耐え抜いたからこそ、普通以上に輝く花。
そう思えたのは私だけかしら。
晴れた日には、24時間沈むことのない太陽の日差しを浴びながら。

耐え抜いたといっても、それは人間から見たものであって、花たちにしては
努力して頑張ったんだろうな。
女性化の道のりも同じこと。

私もいつの日か、この黄色い花のような素敵なオンナになれますように。





4月29日        温度差

今後の二人の進路を相談するために、あるところへ足を運んだの。

カウンセラーにどういった内容でしょうかと問いかけられ、
私が彼女の夫であることを、2年前の写真を見せながら話すと、
ひたすら「信じられない」を連発。私の過去を信じられなかった模様。

以前にはお友達のお友達の女性が、私がトランスだと話すまで
想像もしなかったとのこと。

人々の私に対する認識と私の中にあるそれが、日増しに大きくなっている事も感じる。

信じられない。
いくらアジア人を見分ける事が出来ないといっても、
私がオトコだった事くらいは分かるでしょう。
この国の人はみんな狂っているようにしか思えない。

日本では私は紛れもないオカマ顔だよ。
そんなの絶対にありえないこと!
そのギャップに私がどれほど苦しめられているか。

そして昨夜、パートナーがヒステリックになり私に向かって、こう叫んだの。
彼女:「私の目の前にいる人は誰なの?」
私:「一人のオトコ」
彼女:「何言っているのよ。マリーナという女性でしょう!」
私:「この顔のどこがオンナなんだよ。良くてオカマだろう!」

ホルモンで表情に若干の変化は生じているにしても、大きな変化は一切ないはず。
鏡を毎日見ている本人が言っているのだから。

そうは言ってもこれはあくまでも私の主張。
遠い地で落ち着いてパートナーの気持ちも考えないと。


    ..........      


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