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(2009.05.01-2009.06.30)

6月29日      妥協はイヤ

少し前にちょっとムカついたことを思い出しちゃった。

ある女性に見る度に綺麗になっているわねと言われ、
「ありがとうございます。でも、まだまだこんなんじゃダメですよ。」
と素直な気持ちで返したの。
事実、自分のことを大した事ないと思っているわけだし。

一瞬ムカッとした表情を見せ、どこまで綺麗になれば気が済むのと言われた。
お世辞で褒められたら、謙遜の気持ちを添えて返答するのが普通でしょ。
なのになぜそんなマジに突っ込んで来るわけと、驚いちゃった。

その言葉にはオカマはオカマらしく、女の領域に入ってくるなとも取れたの。
あなたこそもっとオンナを磨けばと言いたかった。

別のところでは、ホル開始初期には、私を見る度にまた綺麗になったねと、
声を掛けてくれた人も、一年くらいが経つと、お化粧の加減で綺麗に見えるのねと、
態度が変わっていたことも思い出した。

そんなにオカマの女性化が気に入らないものなのかしら。

私はまだ目指すレベルに達していない。
たとえ大きな変化を望めなくともこれからも頑張るつもり。
現状に満足した時点で終わりだから。

オカマほどオンナ磨きに熱心な生き物なのよ。



6月27日      夏のバーゲン

久々にパートナーとお出かけ。
スカートにナマ足で、すごく気持ちよかった。

期待したお目当てのお店のバーゲンはまだ半分くらいかな。
正式には7月からだから。

最大70%OFFのお店には期待したものの、これから始まるバカンスに向けての
ビーチで着るようなものが多くてパス。
ヨーロッパでは多くの人がビーチに行くの。
2週間とかそれ以上で、自炊の出来るリゾートマンションとかを借りてね。

私は日焼けしたくないから、ビーチには行かないつもり。

何軒目かにようやくイメージに描いていた服がたくさんあるお店に遭遇して、
10着以上試着するほど気合が入っちゃった。

そこでは、スカートを2枚ゲット。
そのうちの1枚が特に気に入って、帰宅してからも眺めて一人微笑んだりで、
思わず写真に撮っちゃた。

実際はもう少しクリーム色で、写真では分かりにくいけれど、
3本の白いレースが、連続したリボンのようにスカートを取り囲んでいるの。



来週もバーゲンにお出かけしちゃおう。
女の子っていいなって、改めて実感したの。

なぜ長年こんなステキなことを拒絶していたのか、とても不思議。
その分これから楽しめばいいよね。



6月26日      日本人コンプレックス

シミ・ソバカスの目立つ肌、ゴツゴツした顔、傷んだ髪、汚い生足、ジーンズの上に
乗かったお腹の脂肪、飾り気がなく繊細な可愛さが欠如したファッション。
ヨーロッパの街角でこれからの季節、普通に見られる光景。
その反面、すごく綺麗な人は、地球人とは思えないほど。

日本の街を歩くと多彩な髪の色、ウエーブのかかったフェミニンなヘアスタイル、
きめ細かい白い肌、繊細なパーツの組み合わせで出来た顔、お洒落なファッションを
ごく当たり前に見かけ、誰もが女優やモデルに見えてしまう。

特に日本女性のヘアスタイルは、世界でもトップクラスだと思っても間違いない。
私も彼女達のようになりたいと美容院に行ったものの、傷んでいた髪ではどうにもならず、
凹みますます差を感じたの。

お店で店員さんに服を試着するようにすすめられると、
オカマの変身姿に関心があるからと考えてしまった事も。

ところが、改名審判の際などある状況下に置かれると、まるで魔法に掛けられたように、
女優に変身するかの如く、異様なまでの自信を持って行動している私の姿もあったの。

こんな両極端じゃなく、日常からもっと普通に振舞えないものかしら。

ある日、お寺を訪れた時のこと。
拝観料を払うと、窓口の人が案内図を差し出しながら、
日本語で大丈夫ですかと尋ねてくる。
「はい」と柔らかい口調で答えると、今度は「Japanese OK?」と返ってきたの。

その時突如、この人は私がオカマかどうかをチェックしているのかもしれない。
日本人だとオカマ、外人だとお顔がゴツゴツしていても女性とみなされる。
そう考えてしまった私は、英語のパンフレットを手にしていたの。

以前と比べると日本で襲われる不安が徐々に薄れてきているとはいえ、
一体どうすればコンプレックスから抜け出せるのかしら。

疑問符「?」で終わるのでなく、この週末にでもゆっくりと考えてみよう。



6月25日      あなたをどう扱えばいいの?

食事の準備をしていて、冷蔵庫からにんじんを取り出し、皮を剥こうとしたら、
寝室に行きたくなってしまったわたし。

オリーブオイルが必要ねと考えてしまったものの、すぐさま、お野菜と再認識したの。
食べ物だよ、食べ物!



それでも、細かく切るよりも、そのまま生野菜として食べたほうがいいのかな。
白いフレンチドレッシングをたっぷりかけて…
茹でた方が柔らかくなって食感が出るかななんて、ムフムフしながら、
思考回路はどんどん変な方向へ。

ワインを少し飲み気持ちを落ち着かせた私は、この子を冷蔵庫に引っ込め、
二股に分かれていないものを使う事で、ようやく普通にお料理が出来たの。

にんじんが、これほどまでにエロスを備えていたとはね…
それとも、単に私が欲求不満になっているだけなのな。



6月24日      ある悲劇

ロシアである女性が、交際していた男性に殺害されたという記事があり、
殺害動機がすごくショックだったの。

彼女が浮気をしているのではないかと調べた結果、男性であった過去が判別し、
それを隠していた事が許せなく殺害した。

過去を知ったのなら、今まで辛かったねと、なぜ優しい言葉をかけてあげれなかったの。
SRSまで終え、ようやく夢見た女性としての人生を歩んでいたところで、酷過ぎる。

彼女が過去をずっと封印するつもりだったのか、幾度となく話そうとしたけれど、
出来なかったのかは、今となっては真相は分からない。

でも、誰だって話したくない過去の一つくらいは抱えているもの。

こんな中途半端な体をしている私でさえ、オンナと信じている人に対して、
すぐに実態が露わになるのが分かりながらも、話す事が出来なかったのだから。
この街でオカマと呼ばれる事に抵抗のない私でも。

あまりにも可哀想な彼女。
あの世で、女性として幸せに生活されているいますように。



6月22日      憧れの末に

幼少の頃より女の子に憧れ、本格的に始めた女性への道。
属する社会、知人・友人、唯一の心の支えであったパートナーを失い、
気が付けば私に残されたものは、自己満足のみ。

その自己満足も現実には、思い通りに進まない女性化に対する苛立ち、焦り、
将来の生活に対する不安などから来る精神的ダメージにより、
満たされるには程遠く、なぜこんな事をしてしまったのだろうと、
自己嫌悪に陥る事も少なくはないの。

もちろん思い通りに行かないという事は、ホルモン療法に入る前の同意書にも
記載されていて、頭の中では分かってはいるつもりでも、ここまでひどいとね。

やっぱり無理だったから止めるねとは、あれだけ苦しめたパートナーや親には
今更言えないし。

9歳の時、私の夢の中に現れた黒髪のロングヘアの綺麗な女性。
私に今日からあなたは女の子になったのよとささやいた人。
子供の私が大人になっても忘れないように、何年にも渡って
私にその事を伝え続けてくれた。

長年抱き続けた夢の中の女性像。
私は今、幼少の私の夢を実現させるべく女性化の道を進んでいる。
その女性像と現実の姿が開くにつれ考えさせられるの。

憧れは夢で終わるのが、最も幸せなのかもしれない。



6月21日      夜の来ない街

今日は一年で最も昼間の時間が長くなる日。

近頃は22時頃まで明るく、夕食が遅くなっても外の明るさに錯覚し、
ついつい食べ過ぎてしまうの。

体が眠くなっていても、そのくらいの時間だと白夜の状態で眠る事になるから変な感じ。
それでもやがて夜が訪れホッとする。

ところが北極圏の北に位置するところでは、この時期、夜が一切来ないの。
初めて体験した時は、面白く深夜の街をお散歩して深夜の2時、3時まで眠るのを
忘れてしまったほど。

外が明るいにもかかわらず、通りを歩く人の姿を見かけない。
だからもう夜なんだと一人で納得したり。
普段はじっくり眺める事のない夕日を、幾度となくしばらくの間眺めても飽きない。

(24:01のノルウェー、ナルヴィック)

そんな夜のない夜にワクワクしていた私もさすがに一週間も経つと、
「暗い=夜=寝ましょう」の図式が崩れ、カーテンを引いていも薄明るく、
眠るのにも一苦労で、夜の大切さを感じたの。



6月20日      ナンパに潜む汚点

女性化にあたってナンパされることは、それなりに評価されている証だと思っていた。
ところが実際は大間違い。
ある人に貴女が軽く見られただけよと言われそこから派生して、
いかに自らの評価を落としているかに気付いたの。

理由は大きく二つ。
第一に軽くてやらせてもらえそうに見えるから。
胸元が大きく開きブラのカップが少しはみ出ている服、
肩が大きく落ちストラップがすぐに剥き出し状態になる服。
ラメ入りだったり、薔薇の刺繍の網タイだったら軽く見られても仕方がないか。
私としてはお気軽モードでのショッピングのつもりだったのだけれど。

そんな事で思いついたように、プロフィール写真をキャビンクルー風に
清楚な感じのものに変えてみたの。

それでも一番目の事項は全く気にしていない。
一つのファッションであるから。

重要なのは二番目。
声をかけられるということは、あくまでもかける側にとって手の届きそうな存在だから。
反対に高嶺の花である綺麗な女性には、とても相手にされないと敬遠してしまうもの。

ナンパする側も自らの実力を知ってのこと。
彼女として長い付き合いを望むわけでなく、その場の欲求を満たすだけの相手に
あえて高いハードルを設けて時間のロスをしたい訳がないと思うの。
あくまでも速度戦に臨むから。

つまりされる側は、所詮はその程度のレベルにしか過ぎないという現実。

第一の理由で声を掛けられていればまだ許せるけれど、
第二の要因だとした場合、いくら私のレベルが高くない事は認識済みとはいえ、
オンナ(オカマさん)としてのプライドがズタズタに引き裂かれる思い。

これは私が決して自意識過剰という訳ではないの。

昔ある女性と付き合っていたとき、可愛かった彼女が長距離恋愛のため
久々に逢うと、太って不細工になっていたの。ある日彼女に現在の容姿に
触れると、私はきれいだよ、言い寄ってくる人もいるんだからねと
逆切れされたことが。

当時の私は女性の気持ちがよく理解出来ず、ブスのくせに何を偉そうにと不快で、
それが一つの原因で別れたほど。
それから女性を客観的に観察していると彼女らの潜在意識の中には、
私はお姫様という意識が潜んでいることに気付いたの。

現在は女性ホルモンにより私もそのような状態にあるみたい。

さて、二番目のケースを想定して、声を掛けにくい状態に持ってゆくには、
もっとオンナを磨く必要があるけれど、一昼夜に出来るものではないし、
限界もあるわけで、少しでも声を掛けにくい存在になるためには、
まずファッションセンスを高めないと。

文字にして書くのは簡単だけど、実践となると容易いものじゃない。
ファッション雑誌を見ても、ラテン語の飛び交うローマ法を辞書を引きながら
読むのと同様の難易度を感じちゃう。

服を着る必要のないコアラになりたい。



6月19日      MtoF=サイボーグ?

血液検査の帰りに、私の過去を知っている人がいる事務所に顔を出すと、
もう手術(SRS)を終えているのと問われた。
最近なぜかよく聞かれ、未だと答える度に一種の後ろめたさを感じてしまう。

時にはなぜそんな中途半端な状態でいるのかと問う人もいた。
やはりメークしてスカートを穿いている人間の下半身に、
存在してはならない物が付いていては、異様であるのかしら。

そして次には、どこかを手術しているんでしょうと聞かれる。
どうも顔や体は人工的に造らた部分があると考えている人も少なからず存在する様。
少なくとも私を取り巻く環境では。
そんなに人をサイボーグにしたいわけ?
でも全く外れているわけでもないけれど…

クスリによって変わっただけと説明し納得してくれたかなと思うと、
胸は手術で大きくしたんでしょうと言われてしまったの。
女性ホルモンに対する知識の少ない男性のみに聞かれるのではなく、
女性にも不思議なものとして捉えられていた事は以外だった。

あのね、こんな小さな胸のためにそんな事するわけないでしょう。
お金があればもっと大きくしたいのに。

それでも最近は、これくらいあれば十分だと言ってくれる人もいて
少しは自信を持つ事も出来たの。
胸の突起物が未だオトコと言われたのはショックだったけれど…(-_-;)
男ってなぜ物事をはっきり言うのだろう。
もう少し気を使ってくれてもいいのに。

MtoFの当事者にとっては女性ホルモンにより、変化が生じる事は当たり前なものの、
一般の人たちにとっては、まだまだそこまでは理解出来ない印象を受けた。

また日本で仕方なしにクレジットカードに旧名でサインをすると、
ニューハーフのお店で働いているんですかと好奇心丸出しに聞かれた事も。

テレビ等で性同一性障害に関する認知が高まって来ていると思っても、
実社会ではまだまだ未知の世界、好奇の対象に過ぎないのかなと感じてしまったの。



6月18日       ネールカラー

昨年の帰省時に見つけ、すっかり私の爪のベースカラーになっているKiss45番、
チェリークリーム色のネールエナメル。ピンク系は爪の色に近いためか、
塗っても良く分からない色が多いなか、これはしっかりピンクだぞーと自己主張を
してくれるの。薄く塗れば上品だし、濃い目だとちょっぴりセクシーな感じ。

でもそろそろ飽きて来たかな。
たまには素肌の爪でいたいところだけれど、この一年間マニキュアやペディキュアを
ほぼ年中無休状態で塗っていて、見事に爪の艶がなくなり恥ずかしくて
外出も出来ないの。

何色がいいかな?
無難なパープル系?原色系も悪くないけれど、服によって塗り替えるのも面倒。
ピンク系をベースに他の色をアクセントとして入れるのも楽しそうだな。

爪の色一つでこれだけ色々な可能性が存在するわけだから、
女性のオシャレって想像以上に奥深いのね。





6月17日       男女を越えた特別な存在

雨漏りの激しい空港バゲージクレームを出ると、到着ホールに一人の輝く女性の姿が。
パートナーだった。久々に見る彼女は以前に増して綺麗に思え、私は一瞬ときめき、
昔のように唇にキスしようとしたけれど、しっかりほっぺにされちゃった。
当たり前よね。レズじゃないんだから。しかも人前で。

ところがその夜、一人で寝るつもりだったベッドには彼女が入って来て、
ハネムーン時代のようなとっても優しいキスをしてくれたの。
夢みたいだった。

こう記述すると私の恋愛対象が女性だからと思われるかもしれないけれど、
実はホルにより男性に。

男性と唇を重ねる事はオンナとして認めてもらっているという幸せを感じる。
それに対してパートナーは、心に煩悩の一切ない清き心の安らぎを与えてくれるの。
いえ、正確にはとても言葉で表現できない尊いものが。

そんな私を癒してくれる彼女をどうして裏切ってしまったのかしら。
考えると気が狂いそうになるから、今日はやめておこうね。

以前のように接してくれたパートナー。
でもそれは長旅で疲れた私に対する労いに過ぎないかも。
私から離れてゆく準備も着実に進んでいる事だし
女性って一度決心した事は守り通すものだから。

もう明日の事さえ分からない。
これからは今日が最後だと、その時の一瞬の喜びを心に刻んで行くようにしよう。



6月15日       Lサイズ

ショッピングモール内のお店に入る度に感じるのは、気に入った服のサイズが
SやMであること。特にディスコ音楽が鳴っているお店は年齢層が若めという事は
理解出来るけれど、最近日本人女性は身長が高くなっているのにどうして
Lサイズがないのかすごく不思議。

お店の人は鏡で合わせてとか、試着して下さいとは言ってくれるけれど、
ついつい消極的になってしまうのよね。悲しい。

MtoFのみんなは一体どこでお洋服を買っているのかとても謎。





6月13日       空気を読めない人

待ち合わせまで時間があり、マックでシェイクを飲んで休んでいたら、
忘れる前に先ほど買ったピアスに付け替えようと思ったの。
可愛いねって褒めてくれるかななんて考えながら、気合を入れて探したものね。

そんな気分の良い状態でピアス交換を始めると、二人がけのテーブルが
二つくっつけてあるところの奥に座っていた私の対称線上の席の前で、
足踏みしている人がいたの。

見上げると壁にある写真を見ようとしている風にも思えたけれど、
目線がこちらを気にしながらと定まっていないし、本当に写真に興味が
あるならもっと見易い場所まで行って停止するものだし、ハンバーガーの乗った
トレーを持って、その場所でモジモジするわけがないと思う。
集中して書き物をしていた隣のテーブルの人も変な目でみるし、
かなり不審そうな人物。

そんなにそこに座りたければ一言声をかけて、くっついたテーブルを少し
離す素振りを見せてくれればいいのに。

そのうち向側に座っていた二人組みの女の子が、あの人何?変じゃない?
と言い、その声が聞こえたみたいで、まだ空席が目立つ他の場所に
やっと移動してくれた。

冷静を装って鏡でピアスをチェックする振りをしていたけれど、気持ち悪かった。
一人でゆっくりしたいからマックにいるのに、空気の読めない人。
お陰でトイレに入った時に香水を一振りするのを忘れちゃったじゃないの。



6月12日       守られるということ

一本の不審そうな電話。切るとすぐにかかってきて取ってみると、
かなり動揺しているパートナーの声。
時差を考えると向こうは深夜3時半。
しかも野外っぽい。

突如、大きな不安に襲われ聞いてみると、ちょっとしたアクシデントで
市内から隣町まで戻ったものの、そこから先が戻れないとのこと。
静まり返った町は、日本とは異なり治安にも問題が。
長時間を覚悟の上、歩くとしても時速100km以上で車両が走行する街灯が
一切ない暗闇の中を進むことに。

そんな状況下にあり途方に暮れてしまい私に電話をして来たという。
市内のお友達にではなく、1万km離れた私を選んだ位だから、
とてつもない不安に襲われた事が容易に想像が付くの。

タクシーすらなく、警察は何もしてくれない、ホテルは閉まっていて
電話にさえ出ない。

それでも電話で話しているうちに徐々に落ち着きを取り戻している彼女の
様子から、ダンナじゃなくなった私も少しは役に立つと思うと嬉しかった。

最終的には警察に送ってもらうことになったものの、不安なのか車の中から
私にまた電話をかけてきた。

久々に昔の私に戻れたかなと想いに浸っているのもつかの間。
到着後に生じたことに対するショックを和らげてあげたいと電話をすると、
しばらくお話した後に、私がなぜ女性化の道を選んだのと問い詰めれらた。

オンナを守ってくれるオトコを失ったことから来る悲しさ。
女性にとっていかに男性がいざという時に頼れる必要な存在であるか。
同時にそんな人を失った女性の辛さを改めて痛感し、日中の明かりが
暗闇にしか見えなかったの。



6月9日        オトコの心理

ホルモンにより脳まで女性化してしまい忘れかけていたこと。
ナンパした人がお茶をしていても、そわそわして落ち着かないわけ。

要は頭の中が性欲の塊になっていて、お話どころじゃないのね。
外に出れば驚くほどの最短距離でホテルに向かうわけだし。

オンナという生き物は所詮、モノ程度にしか思われていないのかも。
状況的には当たり前かもしれないけれど、現実を目にすると悲しさを感じたの。



6月5日        言い過ぎ、でも嬉しい

レモン色のバッグが買ったものでレモンのように膨らんだ頃、
地下街を歩いていたらナンパされちゃった。
結構しつこく振り払おうとしたけれど、悪そうな感じの人じゃないし、
少しくらいならいいかとお茶に付きあったの。

ところが話し始めると、以外に話を展開させるのが上手とは言えず、
私の方から聞いてあげたりと逆に気を使うほど。

そんな人が突然、それだけ綺麗ならよくナンパされるでしょうと言ってきてびっくり。
あのね、私のどこが綺麗なのよ。だらしなく肩が落ちたTシャツにジーンズ姿の
私に対して、ちょっと言い過ぎじゃない、下手なお世辞と思ったけれど、
帰省後ずっとコンプレックスに悩まされていた私にはちょっぴり嬉しかった。



6月4日        さなうなら

童顔だったMモード時代。
もう可愛いと言われる年齢じゃないけれど、ハンデに感じていたそれを
ようやく活かせると女性化を始めてみると、全く違う方向へ変化してしまったお顔。
別に悪い方向に向かってはいないものの、それを受け入れることが出来ないままに
流れた月日。

繊細で、可愛さを持ち備えた日本人女性像。
その為に帰省後にコンプレックが爆発してしまった。

目の下側にアイラインを引いていたことから、クマさん状態になっていないかを
チェックしに入った化粧室。顔を見たくないなと思いつつ、鏡に映る姿を見ると
そこには笑顔の私がいたの。

一瞬誰かと思った程、表情が生き生きとしていたのは紛れもない私。
その時感じたのは、過去のなりたい姿にこだわっているのは私の心だけ
ではないかという事。鏡に映る私は現にある姿を楽しんでいる様子。

そんな姿を見ていると、何時までも過去にこだわってはいけないと思ったの。
Mモードの姿を引き継ぎ今の私が出来ているのではなく、
新しく生まれ変わったんだ。今持っているものこそ、最大限に生かすことが
大切じゃないかと。

型にはまったものではなく、私オリジナルの女性像を創りあげればいいだけよね。

さようなら過去の私。
今日からは新しいまりなとして生きてゆくことにしよう。



6月2日        消えない過去

戸籍抄本を取りに役場へ。

早速名前の欄に目をやると、まず視界に入ったのは旧名。
それは元からある中央の位置のままで、新しものがその右側に同じ大きさで
記載されていたから。目立つ場所に陣取っている旧名は、文字の真ん中に
一本線が入っているものの非常に薄く、旧名がより存在感を増している状態。
知らない人がその抄本を見れば、夫婦の名が並んでいるとも読み取れそう。

名の変更届け日の欄に旧名が記載されるか、それがもっと目立たない形で
残るものと思っていたけれど、私の過去が消えるどころか、より明確に
傷口が目立ってしまっているのね。



5月31日       ひきこもり

テレビ、雑誌、街を歩く女性を観察していると、自分のことが化け物にしか思えない。
帰省後の最初の一週間は、都会に遠出するなど積極的に行動していたのが、
今ではウソみたい。

可愛いスカートを持って来ているけれど穿く気にはなれず、スカート着用で
お出かけしたのは、裁判所に出頭した時のみ。服を見ようかなとファッションビルに
入っても、キモい人お断りと言われそうで結局すぐに出てしまう。
下着も可愛い感じの物が欲しいなと思っても、似合わないよねと決め付け、
黒以外の色を身につけることが殆どない状態。

最近では家に引きこもることが多くなった。
用があって外出しても、Tシャツにジーンズと全くフェミニンじゃない。
少なくとも向こうにいた時はスカートで外出し、その際のストッキングの柄に
こだわっていた私が別人みたい。

何とかしてこの状態から脱出しないと。
出来るかな。



5月30日       サングラスがないと

根元が黒く、全体的にメッシュ状になっていた髪。
この汚さが日本では異常に目立ち、外出には欠かせなかったサングラス。
染めたいけれど、先月末に染め痛んでいる髪。

長い間待った今日、早起きして美容院に
私の顔にはオレンジ系よりもイエロー系の方が合うと言われたけれど、
一度冒険されてはと、キャロットオレンジにブラウンを入れた色にしたの。

結果はなりたい色に染まって大満足!
でも、記念にとデジカメで撮影したら、赤みが強く、何よりも私の顔が怖すぎ。
鏡で見る限りは落ち着いた感じなのに。
またカメラを床に投げつけたかったけれど、ガマン、ガマン。

少なくともこれでサングラスなしで街中を歩けそうで嬉しいな。



5月27日       過去の封印

一年前には考えもしなかった過去を封印するということ。

新規顧客、新しく出会った人達には、社会的立場を守る必要性から、
生まれながらの「まりな」を演じる必要があったから。
特にホル開始一年を過ぎた今年に入って、それを痛感するように。

昨日美容院へ行った際、海外に住んでいると話すと、ダンナさんとは
どちらでお知り合いになられたのですかと聞かれたの。
その時は、一瞬抵抗感を感じたものの、特に気にせず「奥さん」を
「ダンナ」に変えて話しを続けた。

通常なら女性として認識されていて嬉く思えるはずだけれど、
私は単純に非常に虚しい気分に襲われただけ。

生きる喜びを教えてくれただけでなく、女性化にあたりコンプレックスの
塊の私を常に励まし、オトコであって欲しい彼女の意思に反して、
女性度を上げるためのテクニカルなアドバイスをしてくれたパートナー。
そんな彼女を封印し、存在を否定してしまうことが私には耐えられないの。

「パートナー」を「ダンナ」に振り替えて話しても、限界があるわけだし。

昨年のように私はオトコだよと、直ぐばらすことは最近はなく、
過去を隠すようにしているけれど、私にはきついみたい。
パートナーの存在を否定する場面に遭遇すると。

やはり私にはオンナとして生きていくことが無理かもしれない。



5月26日       痛んだ髪

今時の日本の女の子のように、ふわっとパーマを当てようと、
美容院に勇気を出して行ったらかかりが非常に悪かった。
サロンに3時間近く滞在してこんなになるなんて、非常にショック。
原因は髪が非常に痛んでいるため。

せっかく日本人らしいヘアスタイルにしようと思ったのに…
上手く行かなかった為か雰囲気は元のままで、日本語お上手ですねと
褒められちゃった。

2年前に自分でブリーチをした傷が未だに後遺症として残っているなんて。
それでもヨーロッパにいると痛んだ髪の女性が多く気にならなかったものの、
日本ではすごく目立っちゃう。

更に去年かなりボリュームカットされた髪は、伸ばしていると伝えると、
未だボリューム不足でカットも毛先を整えるのみ。今現在はブローで
何とか見れる状態だけれど、明日からはまた髪を束ねてシュシュの
お世話になるのかな。

女性の美容師さんに背が高くてスタイルがいいですねと言われたのには
ちょっぴり笑っちゃった。実はオカマなの。見れば分かるでしょうと
言いたかったけれど、今日は暴露しないでおいたの。

本当に憂鬱。シャンプーやヘアマスカラだって以前に日本のものを使って
パサパサになったから、今回は持参したのに。

でも、これ以上グチグチ言う暇があるなら、どうすれば髪のダメージを
回復できるかを考えないと。



5月24日       アヤシイ?

街に出て繁華街を歩いていたら、レストランっぽいお兄さんが
ビラ配りをしていたの。

狭い通りの反対側を歩いていた私の方までやって来て、そこまでして
ビラを配ろうとするものと思ったら、私を見ていきなり引き下がっちゃうのね。
ちょっと貴方ね、なぜ引いちゃうのと聞きたかった。

可愛いピアスをして、ゴールドの飾りがキラキラ付いた茶色のTシャツ、
クロップド・ジーンズにピンクのサンダルと決してオカマっぽい格好じゃなかったのに。
大き目の黒いサングラスをかけていたから、また日本語が読めないと
思われたのかな。

もしくはひょっとして、メークをした時、チークと黒シャドーを間違って塗った際の
シャドーがきちんと落ちていなくてびっくりされたのかも。



5月22日       名の変更許可申立事件

青く塗られ外からは明確に違いの分かる、家庭裁判所内の申立人控室。
中の椅子も青で、審議前の緊張感を和らげる狙いがあるのかなと思った。

そんな中、リラックスせずに戦闘モードを高めていたのはわたし。
申立て前に聞いたところ、私の場合は難しいかもと言われたから。

参与員に呼ばれ調停室に移動すると、早くも私が結婚している為難しいと言われた。
ちょっといきなりと、反論にかかろうとした時、その理由が分かったの。
それは私が既にSRSを終えていて、性別変更も希望していると思われていたため。
離婚しているかと聞かれたわけね。未だと返答すると問題ないと言われ、一安心。

それからは終始和やかな雰囲気の中、通称名の使用暦、戸籍名の問題点、
家族の同意があるかを聞かれた。

30分くらい経った頃、参与員がこれから裁判官に聞いてみますと、書類を持って
出かけたものの、実際に私が発言した時間は15分くらいかな。

しばらくして戻って来られたものの、裁判官が会議中との事で、欧州の法律、
言語、私が検察庁で通訳したことがある事など、しばらくお話をして待つことに。

書記官が呼びに来てくれ、事務所に移動し机に座ると、許可されましたので
判子を押してくださいと、こんな紙を見せられた。


主文

申立人の名を「タロウ」を「マリナ」と変更することを許可する。


もっと感動するような形で改名の許可が下りましたという展開を期待したのに、
以外にあっけなかったの。

むしろ帰りのエレベーターで乗り合わせた男性が、降りる際に奥にいた私に
対して、お先にどうぞとレディファーストを受けた方が嬉しさを感じた。

その足で役所に向かい、名前変更の手続きを行い、貰った保険証には
こう記載されていた。

名前:まりな
性別:男

それを見た私が率直に感じたこと。
「オカマさんになったんだな。」



5月20日       眉毛と精神統一

女性化を始めてから眉毛を自分で抜いたり、パートナーにしてもらっていたものの、
片方がゲジゲジ化してしまい、さらに脱色もしているため眉を描くにも見えにくく、
毎朝、眉の太さとかを無視して感で書道を行う感覚で描いていたの。

気が充実している時は一気に描けるものの、人に会ったり大事な用事の時は
力が入って左右の眉の形が異なる失敗も多かったし、眉を描くのに精神統一
するのも朝からだと疲れちゃう。

今日、眉毛カットに行ったらようやく眉のラインに沿って描けた。
こんなに簡単だったとは、ちょっぴりドキモを抜かれた感じ。

これで近い将来私に何かあっても、死化粧が少しは映えるかななんて。



5月19日       ニューハーフとオンナ

長年会っていないお友達と会うことに。
もちろん彼らは私の事は知らない。

待ち合わせ場所に行くと最初は私のパートナーだと思ったらしく、
説明してようやく分かってくれたみたい。次の瞬間に聞かれた事は、
もう(アソコを)切ったのという言葉。ちょっといきなり過ぎだけど…

鼻を整形したのと聞かれた時は、コンプレックスの鼻が綺麗に
見られたんだと思い、ちょっぴり嬉しかった。

でも、顔はオンナだけれど、声はニューハーフって言われて
ちょっぴりショック。まあ、それが現実というものかな。

そして一人が、男友達を一人失くしたけれど言った際、てっきり女友達が
一人増えたと、以前に別のお友達の様に言ってくれるのかなと思っていると、
「交友関係の幅が広まった。これまでいなかったニューハーフの友達が出来た。」
って結構嬉しそうに言うの。

女友達として扱ってもらえるには、もう少し時間がかかるかな。
ニューハーフとオンナって、微妙に違うような気もするの。
それにはもっと努力して頑張らないとね。



5月16日       キラキラシャドー

男友達と会う約束がありお出かけしたものの、アイメークは黒のシャドーと
マスカラのみで何か殺風景な感じで、気になってハイライトになる
シャドーを探しに行ったの。

急いで探していたことが顔に表れていたのか、店員さんに声をかけられ
要望を伝えたところ提案されたのが、黒・グレー・ホワイト・金と銀の混ざったもの。

隣に黒がベースでもう少し大人し目のものがあり、そちらを手に取ると、
最初の方が目元が華やかになっていいですよって力説するのね。

単色だけでよかったけれど、値段もそんなにしなかったし、何よりも
時間に追われていたため、店員さんおすすめのものを購入することに。

私の顔がデート前に見えたのかな。
それとも光り物が好きなことを見抜かれたりして。

いざ鏡に向かうと、全部の色を試したくなり塗ってみると目元がキラキラに。
昼間にしてはちょっと派手かもしれないけれど、まあいいかなって感じで
そのままにしたの。他人は思っているほどに人のことには無関心だろうしね。



5月13日       憧れのランジェリー

デパートのランジェリー売り場を歩いていると、レースに飾られた白いブラと
ショーツのセットが目に留まったの。

高級感溢れるだけでなく、すごくフェミニンでそれらを身に着けるだけで
オンナとしての喜びを感じることが出来そう。それに白いワンピを着たら
まさに私の描いている女性像かな。

私の好きな絵画のひとつにアメリカのエドワード・ホッパーの
「Summertime」があるの。一人の女性が、白亜のコロニアル風建築の入り口の
階段の所に立って誰かを待っているのか、夏の日の想い出に耽って
いるのかといった絵で、それを見る度に絵の中の女性と私のイメージとが
ダブってしまう。

それなら私も彼女のような格好をすればと言われそうだけれど、
今は出来ないの。

白い下着を身に着けるのは、私が本当の女性になってからと決めているから。



5月5日        アンドロキュア

ホルモン療法開始後わずか1ヶ月で、私の男性機能を
ほぼ破壊させてしまった恐るべき抗男性ホルモン剤。

精液を見ることも感じることもなくなってしまった。
具体的にはその部分に快感を感じることがなくなった。
まるで快感を司る神経が抜き取られたように。

3ヵ月目にはオトコの部分を大きくすることが非常に困難となり、
その2ヵ月後には死滅してしまったと言ってもいいくらい。

通常であればこれってすごく嬉しいことなのかもしれないけれど、
私の場合はパートナーがいたため、素直には喜べなかった。

最近彼女に言われたことは、私の男性機能がゆっくりと消滅して行くと
考えていて、話でもそう聞いていたこと。
私自身も全く予期しなかった不測の事態。

特に彼女にとっては、心の準備をする暇もなく訪れたことで、
精神的にかなり堪え、私との距離が広がった大きな原因でもあるの。

処方箋で買うと、一錠あたり10円もしない薬。
しかしながら私の払った代償は計り知れない。

二人の関係を疎遠なものにしてしまったアンドロキュア。
この薬に怒りを感じてしまう。



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