Zimbabue 01
10兆ドル札なんて信じられない高額紙幣が発行されていたジンバブエ。
当時はごく普通の国だった。
ナイロビから首都ハラレに飛行機で到着し、税関の外に出ると以外にひっそりとしていたが、
最初に私に宿の勧誘をしてくるのは以外にも白人だった。ドミトリー・1ベッド20ドル何それ。
私は過去の旅先では2,3ドルで泊まっていたよと、市内に行く路線バスを探したものの、
見つからない。そんな時に、今度は別の白人男性に勧誘され、パンフや話を聞かされていると、
悪くなさそうで、極度に疲れていた私は、彼のペンションに向かうことにした。
ペンションのオーナーの名前はジョン。
メガネをかけ、鼻下に生やした髭の風貌はイギリス出身というよりも、ドイツ人みたいで、
性格もきっちりしているようで、私の選択には間違えがなさそうだった。
むしろ彼は少し神経質なようで、私がパンフをじっと見ていたら、私が疑っているのかと
聞いてくるほどだった。
実際はその時の私は彼を疑っていたのでなく、宿の勧誘をしていたのは、すべて白人で、
私は本当にアフリカ・ジンバブエに来たのだろうか。間違って飛行機に乗ったんじゃない
だろうかといった事を考えていた。
その考えは途中で視界に入った市場に、黒人の人山を発見して吹っ飛んだ。
やったあー、ついに来たんだ、初めてのブラックアフリカ。
テレビで見たのと一緒だ。遂に未体験の黒人国家に。
なぜかその時の私は、非常に嬉しかった。
☆
ジョンが街中でロシア人ゲストをピックアップする必要があるから、それまで車で街を
簡単に案内すると提案してきた。
街の立派な大通りはロバート・ムガベ通り、大統領官邸の近辺の警戒の物々しさ、
大統領について批判的な意見を求めると、口ごもったりと独裁国家としての一面も感じた。
街の中心地に着いたときは、お昼時だったこともあり、まずは私のリクエストで
ローカルの人が利用する安いレストランに連れて行ってもらった。
セルフのお店で、彼も時々利用するという。
質はヨーロッパで食べるものとさほど変わりはなく、美味しかった。
白人と黒人が混ざって普通に働いている。
この国もローデシアと呼ばれていた時代には、南アと比べれば緩やかだったとは言え、
アパルトヘイトが存在していた。
時代は変わったんだろうなと、その時は植民地時代の生活を体験することなど
考えもせず、素直に変化を好ましいと、思ってしまった。
食後に繁華街の歩行者天国を散歩すると、アフリカという雰囲気には欠けてはいたものの、
ストリートミュージシャンがいたり、なかなか活気に溢れていた。
ちょうど良い時間になり、ロシア人をピックアップして、彼のペンションへ向かった。
最初に聞いていた通り、郊外の田舎の風景が広がっている何の変哲もないところに、
簡単な門があり、それから何分か走るとペンションというよりも、大きな邸宅が現れた。
こんなペンションは見たことがないよ。それが、第一印象だった。
ロシア人と私は、車が止まると普通に降りたにもかかわらず、ジョンだけは動こうとしない。
観察していると、運転手がドアを開け、それから彼がようやく降りた。
何かおかしい。
敷地内で気になる光景も目に入ったし。
玄関では奥さんが迎えてくれた。
まるでダイアナ妃を意識しているような、髪型と風貌をし、服装も上品でいったい私は
どこに来たんだろうと考えてしまった。
☆
ここでは毎日夕食もオプションで提供しているけれど、残念ながら今日は週に一度の休業日だ。
近くのクラブで夕食を取れるから、そこに行ってくるといい。運転手に送らせるから。
ジョンお勧めみたいなところで、長旅で疲れていたこともあり、じゃあお願いと、私はお昼寝を
することにした。
さてと、昨夜は寝ていないに等しいから、夕食の時間までゆっくりと寝ようとしたものの、
なぜか眠れない。そのうち、スコールが始まり、雨音がなくなり、外が明るくなったころ、
ジョンが私の部屋をノックしてきた。
「お茶を用意したからどうぞ。」
眠る努力を諦め、案内された場所に行くと、早速紅茶が運ばれてきた。
クッキー、ミルクが入った容器を添えて。
ティーカップもイギリス人らしい好みで。
イギリスみたいだな。元々そこの植民地だったからそんなものかな。
座っている場所からは農場が見渡せ、オレンジがかった太陽が、スコールの後の爽快な
空気とともにすごく心地良い感じがして、紅茶がすごく美味しく感じられた。
しばらくすると、スコーン、サンドイッチも登場。
これってアフタヌーンティーなんだ。
頑なまでにイギリスの習慣を守るジョン。
まさかジンバブエでアフタヌーンティを体験するとは想像もつかなかった。
再び外の風景を眺めていると、まるで、映画に出てくる、植民地時代の世界にいるような
優雅な空間だった。
紅茶好きな私にとっては至福の時間でもあったなと、今となっては懐かしくさえ感じる。
☆
日もどっぷりと暮れたころ、ジョンお勧めのイギリス人が集まるクラブのレストランに
運転手に連れて行ってもらった。
ペンションの近くにあったレンガむき出し、開いた扉からは裸電球が見えた、質素な
その家のことを聞くと、なんと彼の家だった。
予想はしたけれど、イギリス本国に住む人よりも贅沢な暮らしをしている人、そしてそのすぐ
近くには、貧しいアフリカありと、まるで奴隷制度時代のアメリカか、アパルトヘイト時代の
世界にいるかの錯覚もとらわれるほどの、ショックを受けた。
ジョンが自ら車のドアの開閉をしないのも、昔の名残であろう。
レストランは、予め様子を聞いてはいたものの全然ジンバブエらしくない。
内装もイギリス好みな感じがする。
イギリス人団体で賑わっていたその場所で、私は一人だったこともあり、
一組のイギリス人夫婦と同じテーブルで食事をすることになった。
世界はジンバブエだなく、イギリス一色。
ロンドンは出張で何度となく行っていることもあり、大体のイギリス人の外面的な
特徴は分かっているはずなのだが、その旦那の方というのは、クラシックなファッションで、
いかにも地方の保守的な人という印象を受けた。
彼らはジンバブエツアーに参加して、サファリとかを楽しみ満足しているとの事で、
終始旅行の話が多かった。
もう、私は半ば予想はしていたが、運ばれてきたメインディッシュは、ローストビーフに
グレイビーソースがかかり、ヨークシャープディングが添えられたもの。
これって、日本のツアーの団体客がずっと洋食ばかりで、最後に疲れた胃を満たすために、
日本食を食べるのに似ていると思うと、少しおかしくなった。
イギリスよりもイギリスらしい世界に来てしまった。
むしろ、時代をタイムスリップして来たのかもしれない。
ちょっとお酒を飲みすぎた私の頭の中は、もう何が何だか分からなくなってしまっていた。
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