Ghana 1

国境を陸路で越えることの面白さのひとつに両国の「見栄」が見られることがある。

特に興味が惹かれたのは紅海に面したアメリカナイズされたイスラエルの誇るリゾート地
エイラートからエジプトに入った時だった。
大きなホテルであふれているエイラートとエジプト側は正反対もいいところ、
西洋資本のそれが一軒存在するのみで、しかもその場所にはあまりにも浮いていた。

エジプトポンドが必要だったため、立派な建物の中に同行者らと足を踏み入れてみたが、
人影はなく、ロビーの電気も最小限度しか点いていなく、おそらく宿泊者ゼロで幽霊でも
出てきそうな雰囲気だった。

両替所も長らく人が利用していないようで真っ暗であったが、わざわざ我々のために開けてくれた。
暇を持て余す以前に閑散としたホテルがなぜ回りに何もないところに聳え立つのかは、
当時は関係が良いとは言えなかった隣国に対してのせめてもの誇示であったのだろうと
考えると納得がいく。

翌朝ガーナとの国境の村ダコラを目指した。
両国の係員共に感じが良かったが、ガーナ側のおっとりした話し好きの係員からは、
これから始まるこの国での滞在が楽しくなるであろう予感を感じた。

道路の舗装状態も良く、車線が増え、車のスピードも上がりあっという間に最初の大きな街、
ボルガタンガに到着。

さすがだなんて感心していたのもつかの間、その街を離れると先ほどまでとは大きく異なり、
やはり隣国に対する宣伝であるかのように感じた。

当初はその街からアッパーイースト地域に点在する村を訪れるつもりであったが、
すでに予期せぬナナの村めぐりのおかげで大いに楽しめたこともあり村めぐりは
どうでもよくなっていた。街を少し散歩すると乗り合いワゴンターミナルに戻り、
とりあえず北部地方の中心都市タマレに向かうことにした。

ターミナルとは言え正確には切符売り場などがあるわけでなく、ところどころに穴ぼこの見られる
空き地のような土地にヤギや豚の姿がガードマンのように徘徊しているだけである。
それでも頭の上に様々な商品を載せて大声で叫びながら売り歩く子供から大人までの
商人パワーが旅の情緒を盛上げていた。

10歳にも満たない少女が沢山の袋詰めされた水を桶の中に入れ、
それを頭の上に載せて歩いているのを見て桶が頭に当たって痛くないのだろうか、
また冷たくないのであるかと人事ながら心配してしまったが、
しばらく見ているとその心配はなくなった。

桶を直接頭に載せているのではなく、
ターバンのように丸めた布を頭に当てその上に置いていたのだ。
だから手で頭を支えなくとも歩くことも出来たのであった。
非常に単純なことであったが何か大きな謎が解けたようで嬉しかった。

群集の中を頭の上に物を載せて歩くことは、思ったよりも難しいことは後日自ら実証してみた 。
そして何よりも家計を支えるためとはいえ、そんな年齢で学校にも行かずに働いている
姿が、痛々しかった。

少し南下すると、人口30万人くらいの都会タマレに到着。
宿に荷物を置くとすぐに街の探索に出かけたが、昨日とまでは正反対の
最悪なところに来てしまったようだ。

まずは気候。首都アクラ等の熱帯雨林地域からやって来た人にとっては、
空気が乾いていて少しは快適に感じるかもしれないが、私のように北から南下して来た者に
とっては蒸し暑く、蚊もうようよとしているといった熱帯と乾燥帯のちょうど境目のようなところにあった。

規模的に中途半端な街で何もなさそうなので、まずは昼食でもと、
とりあえずセントラルマーケットあたりをうろついてみたが、日曜のためかどこも閉まっていた。

蒸し暑さも手伝い宿に戻り持って来た缶詰でも食べようと考えていると、
どこからか変な音が聞こえてきた。

よく聞くとそれは私の体の中からで、次の瞬間には下痢に襲われたことに気づいた。

今日はまだ何も食べはいなかったはず?
おそらく今日買ったミネラルウオーターにやられたようだ。
ワガのスーパーでは消費期限を年単位で過ぎ、形の変形したミネラルウォーターもあり、
日付を確かめたし、よく冷えているものを選んだのに…

しかも蒸し暑く本当に最悪だ!
その後二度とミネラルウオーターを買うことはなくなった。

ベッドの上で体を休めていると、街に到着して間もない時に話しかけられた青年の言葉を思い出した。
「南に位置するクマシの夜は快適だよ。緑に被われているからな。
それに対してここは木が少なく夜が暑いからな。」
その時は特に注意を払っていなかったが、クマシといった響きが何か心地よく感じられ、
すぐさま地図で場所を確認した。結構遠かったが、この街でウダウダするよりは
体にも良いだろうと考え、明日早朝にでも出発することに決めた。


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