Ghana 3


私を乗せた夜行列車は定刻よりも約20分遅れの20:30にクマシ駅を出発。
だが、そんなことはどうでもよかった。
列車が出てくれたことが大切だった。

列車は出発するとすぐに熱帯の森の、闇の中に消えていった。
しばらくして、その何もないところに列車が停車すると、私はそこに信じられない光景を見出した。
目が何かの綺麗な光で眩しい。
すぐには判別できなかったが、クリスマスツリーのイルミネーションのように、
光ったと思うと、消えまた別のところに光が現れることに気づいた。
蛍の光だった。

子供の頃に図鑑で見た程度でだったので、その美しく柔らかい光には、
言葉も出ないほどの感動をしてしまった。
これの光景を見れただけでも列車に乗った甲斐があったものだ。

蛍の光になれた頃列車は再び動き出した。
私のコンパートメントは二段ベッドが二名分あるだけのところだった。
もちろん私は下段を確保。日が明けてから外の風景を楽しむためである。

このまま上段に誰も来ないで一人だといいなと思っていたところ、
車掌が来て次に駅で黒人が一人乗ってくるが、問題はないかと聞いてきた。

正直私にはなぜそんなことを聞いてくるのか、耳を疑った。
私は黒人国家にいるのだから、当たり前じゃないかと考えたが、疲れていたこともあり、
別にと一言答え何も聞かなかった。

列車はゆっくりと進むのだろうと思っていたが、逆に異様にスピードを出し、
眠るのにも揺れて快適とはいえなかった。
それでも疲れていた私は気づくとしっかり眠っていたようだった。

夜明け前の5時過ぎに目を覚ますと、列車はある駅に停車していた。
暗闇でよく見えなかったが、座席席の多くの乗客が一つの日を囲んで暖を取っているようだった。
そこには臨時の食堂もオープンし、駅をにぎやかなものにしていた。
その賑わった光景を眺めているとあっという間に一時間が過ぎ去っていた。

夜明けの熱帯雨林は昨夜見た蛍の光景と同様に素晴らしいく、
それは暗闇からの出口に到達したようだった。
木々が深い霧に覆われ、濃い緑の光景がなんとも神秘的に夜が明けていった。

そして、まるで夜明けを待つように列車は出発した。

すでに完全に目が覚めていた私は、再び横になって車窓の景色を楽しんでいた。
名前も知らない木々、ココナツプランテーションなどを。



昨夜乗ってきた同室の乗客が目を覚まし、ベッドを下り私の隣に腰をおろした。
彼の名前はコフィ。国連事務総長と同じ名前だと誇らしげに私にそういった。
確か彼はガーナ出身であった。
でも彼はコーヒーに似ているだろうと気の利いたジョークも忘れなかった。

彼曰く明け方に長時間列車が停車していたのは、単線のため対向列車を待っていたとのことだった。
そして列車はまだ目的の半分にも到達していないという。

コフィは二等車の騒然とした雰囲気が嫌でいつも一等寝台で旅行していると私に説明した。
確かに身なりはよく、政治、経済、スポーツなど話題が豊富で、話していても飽きることがなかった。

彼との会話も楽しかったが、列車が停車する度に見かける物売りたちにも興味が湧き、
次の駅ではどんなものが売られているんだろうと想像するのが楽しかった。
売り子達の頭の上に色々な商品を乗っけている姿に私は見とれていた。
その中で大きなパンを抱えた少女がいて、あまりの巨大さに興味が湧き一つ購入しようと思ったが、
私にはあまりにも量が多かったので、結局は眺めるだけで終わった。

列車が動いている間は涼しく快適なのだが、一旦、停車するとコンパートメント内は熱く感じた。
そんな時コフィは私に朝食を勧めてくれた。
ところがそれはギネス(アイルランドの黒ビール)で感謝しつつも昨日の下痢のこともあり、
丁寧に断ったが、逆に他の飲み物で体にいいから飲むようにと強くすすめられ、
私の分も購入していた。

一口試すとビタミンCと卵に黒砂糖を混ぜたような味、オロナミンCのような味がして、
彼に悪くないねと言うと、その言葉を待っていたかのように、
それ僕の言ったとおりだろうと嬉しそうに返ってきた。
私がギネスだと思っていた瓶には、MALTA GUINESSとラベルが張ってあった。
ノンアルコール、ビタミン入り、そう書いてあったようなことを思い出す。

ギネスは私のもっともお気に入りのビールの一つで、世界の色々な場所で試したが、
MALTA GUINESSの名前はこの時初めて知った。
ブルキナでのウイスキーブラック、ガーナでのこの新しい飲み物を知りなぜか嬉しかった。

コフィが列車を降りた後も、私は物売りたちの光景を楽しんでいた。
そして私にこの一等車の切符を選んでくれた、クマシでの彼に感謝した。

最初は珍しく、楽しかった景色にも飽きてきて、再び私は横たわった。

太陽が一段と高い位置に来た頃、熱帯雨林は姿を消し、景色が海に変わった。
ようやく「黄金海岸」に着いたのだ。


終着駅タコラディは立派なターミナル駅で、
ゴールドコーストの旅を始めるにあたってふさわしい場所だった。

                           


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